まるで隣に座るのが当たり前かのような言い草に心臓が跳ねた。
とんでもない!
初対面の、しかもこんな眩しいイケメンの隣に座るなんて、私にとって罰ゲームか嫌がらせの何物でもない。
角の立たない断りを入れようと「あの、えっと……」と言い淀んでいると、何を思ったのか。
男性は「もしかして狭い?」と言いながら、端へと移動して座るスペースを作ってくれる。
違うから、とは突っ込めない……。
煙たがれる事はあっても、受け入れられる事はほぼないから、こうして近くに寄るのを許されるなんて、どうしたらいいのか。
寧ろ早く自分のフロアに戻りたいですけど。
大人3人は余裕で座れるベンチなのに、拒絶をしたら、自意識過剰だと思われるかな……。
戸惑いながら、遠慮気味に端っこにちょこんと腰掛けてみる。
そんな私の葛藤を露ほども知らず、男性はプルタブを開けてコーヒーを飲んだ。
営業マンって、人の機微に聡いものだと思ってたけど、そうでもないらしい。
うぅ~、緊張する……。
動いてもないのに、毛穴から汗が噴き出てきた。
居心地の悪さに持っていた缶にチビチビと口をつける。
初対面の人と会話をするなんて、そんなハイスキルは持ち合わせていなし、今更「じゃあ」って去るには、タイミングを脱してしまっている。
どうしたらいいものかと思っていると、相手から話をふってきた。
「経理の黒川、さんだよね?」」
口に含んだミルクティーを吹き出しそうになったのをかろうじで咥内にとどめた私は、偉いと思う。
まさか、こんなイケメンが私なんかを知っているとは思わないもんね。
「野村と三沢、俺の同期なんだ」
意外な繋がりに、多少驚きつつ、ゴクンと咥内の物を飲み込んだ。
「時々あいつらと飲むんだけど、黒川さんの名前がよく出てきてたから、どんな娘かと思ってたんだ。あいつら本当に気に入ったヤツの話しかしないから」
酒の肴に私の話題なんて……とてもじゃないけど、楽しい飲みとは思えない。
唇を噛みしめる。
握った缶に入ったミルクティーが、中で小さな波を起こしていた。
「同じ建物内にいるのに、なかなか会う機会なかったよな?」