「そんな!パパが……篠田商事を支援する代わりに、私と颯吾の婚約を取り付けたって言ってたのよ?」
「宮川社長が、何を意図してそう言ったかは知らないが、俺は君とは婚約していない。それと、さっきから支援支援と言ってるけど、篠田商事は基盤がしっかりしているし、経営だって毎年右肩上がりだ。何を勘違いしているのかは知らないが、援助してもらうような経営危機に陥っていない」
「でも、皆、颯吾の婚約者は私だって知ってるじゃない?颯吾だって今まで否定しなかったのに、なんで今になってそういう事言うの?雑誌でもパパに結婚の挨拶をしたって言ってたのに……」
悉く否定され、香織さんはショックで声を震わる。
私も、香織さんから渡された雑誌で読んだ。
そこには、確かに婚約者の存在と結婚間近と明記されていたけど……。
「それはそっちが勝手に宣言して歩いたからだろ?しかも、それを煽るように周りが広範囲に拡散していて、此方としては収集がつかなくて非常に迷惑をしている。俺も篠田商事も、問い合わせに対しては、ちゃんと全て否定している」
うんざりという感じで肩を竦めて見せた。
「それに、他にちゃんとした婚約者がいる。❝誰が❞以外は否定してない。相手の父親には事実を話して結婚の承諾を得ている」
颯ちゃん本人から語られる新たな新婚約者の存在に、眩暈がした。
雑誌の取材で婚約者について聞かれたから、その婚約者の父親に挨拶をしたと答えただけだと、颯ちゃんは言う。
今にも倒れそうな私に気づいたのか、颯ちゃんが後ろに居る私の横に並び、窘めるように肩を抱く。
その、いつもと変わらない穏やかな微笑みが、一層胸を苦しくする。
「もういいか?これ以上話しても時間の無駄だ。俺は早くリリーを病院に連れて行きたい」
後は宮川社長に聞いてくれと、玄関ホールに向かって歩き出そうとする私達に、香織さんは尚も嚙付いた。
「そ、その女にはやけにご執心のようだけど……颯吾は騙されてるわ。颯吾が同棲紛いまでして入れ込んでたりこの正体知ってる?」
すれ違う直前、私を一瞥し不適に笑う。
「隣に居るその女よ!」
忌々しそうに私を睨みつける香織さんに、卒倒しそうになった。
私がりこだと姿を偽って、颯ちゃんとの関係を結んでいた事を暴露されてしまったのだ。