「梨々子!!」
颯ちゃんの大声に驚いて身体をビクッと硬直させた瞬間、唇が柔らかいもので塞がれた。
……キス。
ヤダ、キスなんかしないで!
他の人にもしている口でキスしないで!
名前も呼ばれたくない!
向かう側へ押し退けようと胸をおしても、叩いても、やっぱりビクともしない。
固定された顔も離す事もズラす事も叶わず、私の抵抗なんて無に等しい。
少し開いた唇を割って滑り込んできた舌がを荒々しく蹂躙する。
「んっ……」
鼻にかかった甘い声がでてしまい、凄く恥ずかしい。
だけど、颯ちゃんに教えられたキスは、無意識に侵入してきた舌の動きに適応してしまう。
私の咥内の快感ポイントを拾うように舌を絡められた。
柔らかな感触に、微かな眩暈を覚え、胸が高鳴る。
意識は完全に重なる唇に奪われ、抵抗していた手は縋るように颯ちゃんのワイシャツを握り身体を凭れた。
私の身体から力が抜けたのが解ると、嵐のように激しいキスは、凪いたものへとかわり、唇を啄む。
身体に熱が帯びてきて、脳幹が痺れる。
離れた唇は、2人の唾液で濡れて恥ずかしい。
颯ちゃんは、自分の口の端を拭うと、次に私の唇の端を親指を滑らせる。
瞳を劣情に揺らし舐めずりをする仕草に、またキスを強請ってしまいそうな衝動に駆られながら、ぽうっと見入る。
「……病院に行こう」
艶を纏う瞳に優しく諭され、コクンと素直に頷く。
見つめ合ったまま、どちらからともなく手を繋いで立ち上がると、眼前に怒りで燃える香織さんの姿があった。
あ、忘れてた。
そう甘い時間は続く訳はなかった。
「ちょっと!2人の世界に浸ってんじゃないわよ!?」
茹蛸のように、顔を真っ赤に怒りで燃える香織さんの姿があった。
私は一気に血の気が引く。
キスに夢中になって、すっかり忘れてた。
しかも周囲を見渡すと、いつの間にか河原さんをはじめ経理課のギャラリーが集まっていて、生暖かい視線を送られていた。
一課総出で助けに来たかも、と言えば響きはいいけど、これ絶対野次馬でしょう?
女子社員に至っては、あの篠田颯吾と、会社でも奇妙な容姿の私との思いがけない関係に意外な青くなっていた。