颯ちゃんを取り巻く数々の噂が脳裏を掠め、素直に甘えられない。
既に他の私以外の女性を抱いているであろうその手に、触れられたくなかった。
慈しみを注がれた、リリーへの手。
女として情を施す、りこへの手。
2人の梨々子に差し出された手は、もう他の女性に触れている。
それが、嫉妬心で拒絶をしてしまう。
「もう子供じゃないの。私の事は放っといて……」
震える声を押し殺して言った。
好きだけど、会えて嬉しいけど、それだけじゃダメだ。
「颯ちゃんにはもう他の女が居るじゃない。私なんかもう必要ないでしょ?」
颯ちゃんから嘆息がこぼれた。
子供じゃないと言いながら、子供みたいに駄々を捏ねて呆れられてる。
それでも、私だけのものであって欲しかったものが、他人のものになったという現実が許せない。
「リリーは、俺が嫌いか?もう、俺は見たくない?」
不機嫌全開に、地を這う程低い声で問われ、私は静かに頷いた。
好き……大好き……。
でも、今颯ちゃんを見たら瞳に溜まった涙が零れちゃう。
「リリー。……こっちを見て」
顎に指を添え、上を向くように促され、私はそれをまた掻き退ける。
零れそうな涙を必死に堪えた。
颯ちゃんの手がギュッと拳を握ったのが見えて、完全に怒らせてしまった事に、心の芯が震えたけど、私自身ももうとめられない。
私の頑なな態度に業を煮やした颯ちゃんが、力づくで私の顔をあげさせ、吃驚した私は思わず眼前の颯ちゃんと視線を絡ませてしまった。
大好きな颯ちゃんの顔を間近に、我慢していた涙がポロポロ流れ落ちる。
こんな情けない私、見られたくなかったのに……。
「ヤダ、はなして!颯ちゃんなんか嫌い!もう私なんか要らないくせに!私なんかどうでもいいくせに!」
颯ちゃんを押しやろうと、胸を叩いて拒絶してもビクともしない。
どうしたらいいのか解らなくて、涙がとめどなく溢れる。
「リリー、落ち着いて……」
「ヤダヤダ!颯ちゃんなんか嫌い、大嫌い!もう放っといて!」
「リリー……」
「離してよぉ……!」
こんな失態を颯ちゃんの前でしたかった訳じゃないのに。
だから早々に消えようと思ったのに。