そう蔑んだ黒い笑みを浮かべ、くすりと笑う。
私は颯ちゃんと私がもう関係なくて、噂の女性は他の人だって伝えたいだけなのに、私を庇った所為で水戸さんまで巻き込んでしまった。
これ以上会社や関係ない人を巻き込まないうちに、きちんと説明して早く帰ってもらわなくちゃ。
「水戸さんは関係ありません」
「黒川ほっとけ」
「颯ちゃんとも本当に、あれから会ってません。私は……颯ちゃんと香織さんの邪魔をするつもりもないし……」
「今更何言ってるのよ!!」
私の言葉尻を奪って、香織さんが叫んだ。
落ち着いたかのように見えた表情は、また怒りに満ちていて、慄いた。
血走った瞳に睨まれ、背筋がゾクッとする。
でも、負けなれない。
「散々謀略して颯吾を惑わして、人の人生めちゃくちゃにして……!私は……私は、あんたの所為で婚約破棄されそうなのよ」
こ、婚約……破棄……?
数瞬、理解に逡巡してる間に、香織さんが続ける。
「颯吾をこんなに想ってるのに……。2年も婚約期間を経てやっと結婚するって時に、今更婚約破棄なんて!!」
香織さんにパンプスを投げつけられ、気を取られた次の瞬間には香織さんが襲い掛かってきていた。
私の襟ぐりを掴んで押し倒し、馬乗りになって来た。
私頭の中が真っ白になった。
『………私の赤ちゃんが!』
声にならない声が脳裏に木霊した。
香織さんは狂ったように「おまえの所為だ!!」と咆哮を響かせ、手を振りかざす。
「やだっ。やめて!」
お腹の上の香織さんを退かせようと押し返す。
後ろから水戸さんに羽交い絞めにされながらも、香織さんは私の髪を引っ張っる。
痛い!
「やっと結婚できると思ったのに、あんたが横槍入れて、颯吾を誘惑するから!」
「ちが……っ!待って、話しを……聞いて……」
「半端な気持ちでちょっかい出してんじゃないわよ!」
落ち着かせようと声を掛けても尚、香織さんは錯乱したように叫び続け、私のお腹から退いてはくれなかった。
やだ、赤ちゃんが……。
私の赤ちゃんが死んじゃう―――っ。
自分の中で糸が切れる音がした。