「……お、お疲れ様です」
「お疲れ……」
反射的に挨拶を交わした。
それから微妙な静寂に包まれ、空気が圧縮されたように居心地が悪い。
き……気まずい……。
少し早いけど、これは退散あるのみ。
会釈をして、立ち去ろうとすると、背後から声を掛けられた。
「服、大丈夫だったか?驚かせて悪かった。昼は殆ど連絡こないから、うっかりテーブルの上に置いちゃってさ」
自らすすんでこの恰好をしておいてなんだけど、大半の人は私の容姿を不審がって蔑視してくる。
白い肌は顔色が悪く病弱に見られるし、美容室が苦手で伸ばしっぱなしの髪は腰まであり、ヘアゴムで束ねているだけ。
顔を隠す前髪は、ファッションで伸ばした訳じゃないし、眼鏡だってお洒落感のあるものではない。
陰湿でお化けのようだと言われ、普通の人なら必要最小限話しかけてこない。
だから、まさか呼び止められるとは予想だにしなかった。
なんか、凄く緊張するんですけど……。
「い、いえ……。私こそ、過剰に反応してしまって……すみません」
「なんであんたが謝ってるの」
男性は力強い黒い瞳に弧を描き、相好を崩した。
その笑顔は、社食での不機嫌そうな印象を滅し、私を忌避する様子を微塵も感じさせない。
私を見ても平気なのかな?
「あの、ハンカチ……あ、ありがとう、ございました。ちゃんと、洗って返しますね」
「あぁ。別に気にしなくていい。あれは、俺の不注意で驚かせてしまったし」
そう言いながら、スーツのポケットをあちこちに手を這わせる。
小銭を探しているだろうその仕草に、
「……何に、しますか?」
「え?」
「その……細かいの、ないんですよね?」
硬貨を投入し「どれ?」と聞くように、震える指をプッシュボタンの上で彷徨わせて見せる。
私を忌避しない貴重な人材に、感謝の飲み物代くらいだしてもいいだろう。
「んじゃ借りって事で」
ブラックコーヒーのボタンを押した。
取り出し口から缶コーヒーを取り出すと、近くのベンチに一人分のスペースを空けて腰をおろし、突っ立ったままの私を不思議そうに見た。
「座んないの?」
「えっ?」