颯ちゃんが他の女の人となんて、考えたくもないのに。
「それ……私じゃない。他の人です……」
「あんた以外、誰が居るって言うのよ!」
「知りません!私の時みたいに調べればいいじゃいですか!」
「調べてもあんたしか出てこないのよっ!いい加減白状しなさいよ!」
ますます胸倉を掴ち手に力を込められた。
頭に血が上っている香織さんとは対照的に、私は妙に冷静で、香織さんが私の妊娠を知って乗り込んできたわけじゃない事に内心安堵した。
ただ、掴まれた胸元の圧迫感に少し息苦しさを感じた時、2人の間に1本の腕が差し込まれた。
「黒川は嘘は言ってない」
肩で息をした水戸さんだった。
香織さんから私を引きはがすと、2人の間に割って入る。
「黒川はあんたとの約束通り、篠田颯吾とは接触していない。それは、俺が断言できる」
「何よ、貴方もその女に篭絡された類?この女、顔に似合わずよっぽど夜の御勤めがお上手なのかしら?」
「なっ……!?」
人を馬鹿にするように鼻で笑う姿に、カッとなる。
私の事はいい、だけど、水戸さんは関係ないのに酷い!
私が身体を前に出すと、水戸さんに手で制された。
「寧ろ篭絡してくれればいいんだけど、残念ながら俺の一歩通行でね。それにしても、自分が篠田颯吾をしっかり捕まえておけないからって、人にあたるのも大概にしたらどうだ」
一歩前に出て続ける。
「だいたい、そんなに血相変えて人の会社に乗り込んでくるなんて、あんたよっぽど余裕ないのな。婚約者なんて名前だけで、その程度にしか思われてないって、自分で言って歩いてるようなもんだろ」
水戸さんの挑発的な態度に、香織さんの顔がますます険しく真っ赤に染まる。
私の問題なのに、何故か『水戸さんvs香織さん』の構図に差し替えられてしまい、話がよからぬ方向に逸れ始めた。
「婚約者だっていうなら、しっかり首輪つけて繋ぎとめておけよ。今後一切、黒川にかかわるな」
「何よ。そんなにムキになっちゃって、もしかして、貴方たちってそういう関係なんじゃないの?この女も、そんな形して男を渡り歩いて、どれだけ股が緩いんだから。貴方も、こんな子供に振り回されて、情けない」