いつもの猫なで声からは想像できないようなキツイ口調と、腕組みをして顔を横に逸らしながら私を睨め付ける様は、愛くるしい形貌を歪ませて見せた。

普段、河原さんにうっとり溶けるような視線を送っている男性社員たちは、突然豹変した憧憬の対象の横柄さに、狼狽し固まったり、苦々しく嫌悪感を露わにしている人もいる。

ついさっきまで談笑して笑顔を見せていたのに、と突然の事態を飲み込めず、私も呆然と立ち尽くしてしまったけど、河原さんは「ふんっ」と言わんばかりに周囲を一瞥し、私の胸元をトンと押した時、はっと我に返った。

私を見つめる瞳は、私を心配するように揺れている。

香織さんが間違いなく私を訪ねてきたのに、そんな私を庇おうとしてくれてるのは明白だった。


「ちょっと行ってくるわ」


と怠そうにドア方向に向かう後ろ姿に、目頭が熱くなって、喉がキュッとしまった。


「か、河原さん、ありがとうございます。でも、私大丈夫です」


私の声が、やたら大きく響き、周囲の視線が私に集中する。

人目に晒され、震える指先でグッと拳を握った。


「香織さんが訪ねてきた相手は、私で間違いありません。私、大いに心当たりがあるんです。だから、私を庇おうなんて思わないで下さい。私の身代わりになろうとしないで下さい。河原さんが優しいの、私よく解ってます。河原さんのぶりっ子も、気が強いところも、実は凄く気遣い屋さんで、面倒見がいいところも全部解ってます。だから、私の為に周りに誤解されるような真似は、しないで下さい」


河原さんにゆっくり近づいて対峙すると、河原さんは瞳を見開いて、呆気にとられた表情で口を半開きさせた。

だけどすぐ私の言葉を理解して、


「ぶ、ぶりっ子は……余計よ」


頬を染め、照れたように憎まれ口をたたく姿は本当に可愛くて、自然と微笑みが零れた。


「皆さん、お騒がせして申し訳ありません。課長、勤務中ですが、少し……席を外します」

「あ……あぁ……」


鳩が豆鉄砲を食ったような課長と、フロア全体に頭を下げて、ドアノブに手を掛けると、突然勢いよくドアが開いた。

驚いて一歩後ずさると、焦燥感を滲ませた水戸さんが飛び込んできた。