田所さんも、私の秘密を知っちゃったとばかりに「うふふ」と得意げに笑い、そのあっけらかんと気づかない様子にほっとすると、1人だけ私を凝視する瞳に気づいた。

昨日、2人で色々語った河原さんだけが、何かに勘付いたように瞠目していた。

河原さんが思っている事、それはきっと『正解』。

私が黙って見つめ返したのを肯定としたのか、何か言葉に詰まったように、経理課のアイドルと謳われるその可愛い顔は完全に蒼白し、きつく口を噤んだ。

信じられない、よね。

当事者の私だって、信じられないよ……。


関係ないと思っていても、心に引っ掛かるのは颯ちゃんの新たな愛人の事。

どんなに愛を囁かれても、りこはやっぱり遊びでしかなかったんだ。

本人でもあるのに、りこに対して他人事のように憐憫な想いすら湧いてくる。

私って何だったんだろう……。

そんな事ばかりが渦巻く。

絶望感でいっぱいなのに、それでも颯ちゃんが好きだという想いは消えず、呆れてちゃうよね。

意識をパソコンの画面に集中させてないと、泣きそうになってしまうから、理性を総動員させて自分を奮い立たせた。

切りのいいところで、無意識に嘆息すると、向かいの席のから個包装されたチョコレートが2つ、デスクに転がって来た。

顔をあげると、三沢さんが「頑張れ」と自分の胸で拳を握って見せた。

明らかに気落ちしている私に気遣い励ます仕草に、涙腺は崩壊しそうになった。

震える唇の両端を気力で上げて見せたけど、三沢さんにはどううつったかは解らない。

ただ、力なく微笑まれた。

私が心を熱くし、定時まであと30分、頑張ろうと気力を振り絞った時、お使いに出ていた金沢さんが帰社して、珍しく私を何度も気にするようにチラチラ視線を流してくる。

妙な違和感に、ますます居心地を悪く感じ落ち着かない。

課長のデスクに戻った事を報告すると、躊躇いながら私のところにやってきて、周囲を窺いながら顔を寄せて来た。


「今、受付に女の人が黒川さんを訪ねて来てて……」

「……え?」


私を訪ねて来るような知人に、全く心当たりがなかった。