指輪に手を掛けると、今井さんが興味深げに私の手元を見ていた。


「黒川さんのそれって彼から?裏になんて刻印してるの?参考にまで見せて」

「刻印なんて……」


……ある訳がない。

さっきの話で、私の心は完全に折れてしまっていて、今井さんの指輪に注視し、急かすようなに瞳を輝かせている姿には不快感しか湧いてこない。

それでも河原さんや田所さんまで野次馬のように集まってきて、嫌とは言えない空気にNOとは言えず、黒い感情を放棄した。

指輪に指をかけると、沢山の双眸の関心が一点に集まる。


「うわっ。このブランドって……」


このブランドの価格設定を知るらしい田所さんが言葉の先を濁した。

好きな人から貰う指輪は、女の子の憧れである。

しかも、それがハイブランドな上に、私のような奇妙な容姿の人間が身に着けるには、何とも不相応な代物で興味を唆られるのだろう。

今となっては悪辣なプレゼントにしか思えないのは、私の狭量の所為だけではないと思う。

そう言えば、夢の中で颯ちゃんが王子様のように指輪にキスを落としていたな。


―――これに想いのすべてを込めてある。


想いのすべてって何?

一瞬躊躇ったものの、外しリングの内側を覘きこみ、瞳を凝らすと今井さんの言う通り、何か流れるような文字が刻まれているのに、はっとする。

……全然気づかなかった。
その筆記体で彫られた文字は、私でも読めるような単語が並んでいた。

一文字一文字、確認するように心で読んで、瞳を疑った。

フリーズする私に代わり、河原さんが文字を読み取る。


「『Sougo to Ririko』……」


一度言葉を切って、息を飲んだ。


「『WITH LOVE』……」

「Sougo to Ririko WITH LOVE」


河原さんに確認するように早苗さんが繰り返す。


「愛を込めて……」

「うわ~。もしかしてとは思ったけど、やっぱりエンゲージリングだったんだね!」