ハンカチを受け取ってしまった自分が、憎らしい。
「悪い……」
ぶっきらぼうな声がして、視線をあげると、眉間にしわを寄せ、力強い瞳の眦を下げた。
パッと見怖いけど、悪い人ではなさそう。
「あの、私は大丈夫なので、携帯……」
鳴り続ける携帯をさすと「あぁ……」と言って通路に出て行った。
私は最後の一口を飲み込むと、化粧室に滲み抜きに向かった。
水に濡れたスカートを鞄で隠しつつ、3階にあるレストスペースにやってきた。
ここは日当たりも良く、服を乾かすにはもってこいの場所だ。
スカートを日の当たる位置へ調節すると、自販で買ったミルクティーに口をつけた。
右手には、今朝プレゼントされたダイヤの指輪が輝いている。
太陽の光を反射するかのように七色の光をキラキラと放っていた。
「綺麗……」
これ、いったいいくらするんだろう……。
ネットで検索すればすぐに解りそうだけど、それを知るのは、ちょっと勇気を要する。
颯ちゃんからのプレゼント、凄く嬉しいんだけど、やっぱり身の丈に合わない。
ダイヤと言いつつ、本当はキュービックジルコニアでしたぁ!なんて落ちは……ないか。
宝石に疎い私でも、この上品な輝きが本物だと本能的に察している。
お陰で、私がダイヤの付属品?になった気分と言うか……。
いやいや、付属品どころか、舞った埃?が偶然付着してしまった的な感じかな?
自分で自虐したら、解ってても悲しくなって肩を落とした。
会社の先輩でも、よく誕生日に両親や彼氏からブランドのバッグ、アクセサリーを貰ったって自慢してた人がいたけど、私の場合、隣の家の幼馴染からで。
やっぱり……颯ちゃんは、親的な心情なんだろうな。
―――香織さんにも、こういうプレゼントしてるのかな……。
そんな思いが頭を過って、振り払った。
私と香織さんでは立場が違う。
比較するなんて、以ての外だ。
指輪に重ねた手をギュッと握った時、後ろから窮した声がした。
「やっべ。万札しかねぇ」
振り返ると、さっき社食で席が一緒だった男性の姿があった。
彼も私に気づいて「あっ」と呟く。