颯ちゃんのネームバリューを考慮して、相手についての詳細は伝えられないけど、婚約者が居る人に横恋慕して赤ちゃんを授かり、それを公に出来ないし、体調も悪いから退職し引っ越すだろうと簡単に伝えた。
河原さんは不満気に顔を顰め、早苗さんも複雑そうな表情をしてあたけど、私が決めた事だと、まずは納得してくれたようだった。
それから私の落ち着く3階のレストスペースに移動して、其々自販から飲み物を買い、ベンチへ腰を下ろし。
私は苦手な牛乳を買って端っこに座った。
苦手でも、赤ちゃんの為に飲まなきゃね。
丁度一息ついたところに、外にランチをしに行っていた、いつも河原さんと一緒にいる同じ課の田所さんと今井さんが河原さんに顔を出しに来た。
「珍しいメンバーでウケるんだけど〜」
私達3人を見て、何がウケるのか解らないけど、田所さんが無邪気に笑った。
田所さんはころころ表情や話題が変わる人で見ていて正直目まぐるしいけど、とても愛嬌のある人だ。
今井さんはそんな田所さんの1つ1つを笑顔で受け止めていて、落ち着いた大人な感じ。
私も同じ課とはいえ、基本仕事以外で話す事がないので一気に緊張のボルテージが上昇する。
「今ランチしてたら、カフェで聞いたんだけど、あの篠田商事の篠田颯吾、やっぱり婚約者以外に女がいるらしいよ!」
私はサッと青褪めた。
一瞬りこ……?と脳裏を掠めたけど、りことは大分前に別れてるし、続けられた話の内容から違う女性だとすぐに推察された。
「そんなの前から噂あったじゃない。一緒に手を繋いで歩いてるのとか、堂々と抱き合ってたとか、路上キスとか」
「2人で飲みに行って、酔った相手を介抱しながら何処かに消えて行ったとかもあったわよね?」
心当たりがあるものと、無い物のあった。
りこ以外の女性が居た……?
少なくとも、私が颯ちゃんのマンションに居座ってた時には、そんな事を感じた事はなかったけど……。
じゃあ、りこがリリーとして自宅に帰ってる時?
ううん、その時は仕事終わりに颯ちゃんは黒川家にやってきてたし。