晴ちゃんからは颯ちゃんと同じような匂いがして、胸が疼くけど落ち着き、次第に嗚咽もとまった。


「晴ちゃん、お友達の車があるのに、なんで颯ちゃんに連絡したの?」

「夜中まで遊んでるような悪い子に、今1番効くお仕置きかと思って」


口の端あげ微笑む仕草に、意地悪されたと睨むと、喉でくつくつ笑われた。


「颯兄、今仕事立て込んででバタバタしてるんだ。それが落ち着いたら、時間出来ると思うし、その時は逃げないで話を聞いてやってよ」


晴ちゃんの言葉に何も返せないまま俯き、窓の外に視線をうつし右手でお腹を摩る。

私だって、出来るならそうしたい。

だけど、私は颯ちゃんに嘘をついて騙した上に、妊娠してる……。

家族だと思ってた人間に騙されて、更に妊娠までされたらどう思うだろう。

婚約者がいて、これから新しい人生を歩もうとしてる大好きな人の幸せを、私は壊したくない。

お腹を摩る右手にに左手を重ね、薬指に嵌る指輪を撫でる。


『離れてても心は傍に居る』。


凄く嬉しくて、その言葉だけで十分だと思った。

だから、もう離れても大丈夫。

指輪と赤ちゃんが居れば、私生きて行けるよね。

窓の景色が歪みはじめて、瞼を閉じた。


家を出よう―――。