「こんなとこでりりに会えてラッキー!俺だけだと放置されるけど、りりが一緒だって言えば、颯兄がすっ飛んできてくれるもんな」
そう放たれた軽口に脳天を打ち抜かれたような固まった。
ポケットからスマホを取り出した瞬間、スマホを奪おうと飛びかかると逆に片手に抱きしめられ拘束される。
「晴ちゃん、お願い、颯ちゃん呼ばないで!」
私の叫びを無視して、画面をタップして耳にあてた。
「お願い!晴ちゃんやめて!」
身体を捩って脱出しようにも、男と女の力の差は歴然でびくともしない。
晴ちゃんは呼出音に耳を傾けたまま、私がどんなに叫んでも一瞥もしない。
「晴ちゃん――――――っ!!」
嫌だ、私、颯ちゃんに会えないのに―――。
涙がポロポロ零れた。
何回か呼出音が聞こえて遠くで「もしもし」と声がした。
嗚咽を噛み殺して、ひたすら涙を溢れ出る。
「あ、颯兄?今何してた?」
『仕事中だ。どうした?』
「そっか~、残念。迎えに来てもらおうと思ったのに。仕事中にごめんね」
『いいよ、丁度相手が席外したところだったから。そうだ、明日の朝にでも、父さん達に空いてる日聞いておいてもらえるか?大事な話があるんだ』
スマホから漏れる懐かしい声に、胸が苦しくて、苦しくて、締め付けられられて涙が止まらない。
そのスマホの向こうに颯ちゃんが居るーーー。
頭では拒絶してても、心が颯ちゃんを求めて疼いてたまらない。
―――――会いたい。
そう一言言えば、きっとどんなに遅くなっても、飛んできてくれると思う。
でも……。
晴ちゃんは拘束の手を解放すると、声を押し殺す私を優しく抱き寄せた。
『……晴太?』
「あぁ、ごめん。今ちょっと仔猫を拾ってさ」
『仔猫?』
「親猫と迷子になったみたいで、男の絡まれてたとこ奪ってきたんだ」
『………今、どんな様子なんだ?声、聞きたい』
私にスマホを向ける晴ちゃんに、全力で首を横にふって拒むと、スマホを耳に翳してきた。
こんな時に、晴ちゃん酷い!
絶対口を開くもんかと、拒絶の意味を込めて両手を重ねて口を塞ぐ。
『……こんな時間までお散歩とは、随分好奇心が強い子だ』
上部スピーカーから聞こえてくる、懐かしく、愛おしい人の声。
耳元で囁くような優しいの語り掛けに、胸が軋む。