横恋慕して、婚約者が居る男性の子供を妊娠して、相手に言えないだなんて、ほらみたことか、とか思われてるんだろうな。
私は黙って瞳を伏せ、お腹のあたりの服をギュッと握る。
私だって思慮が足りないのは解ってる。
―――こんな時、いつも颯ちゃんが助けてくれたのに。
そう安易なクセが湧いて出て、すぐに打ち消した。
困ればいつも颯ちゃんを頼ってた。
だけど、その颯ちゃんはもう居ない。
私を助けてくれる大きくて温かい手は、もうない。
私が関係を壊したから―――。
これから誰にも頼らず、1人で考えて解決していかなきゃいけないんだ。
そう改めて思い知ると、心が痛くて、泣きそうな気分になった。
「悪い……。1番困惑してるのは黒川なのに責めるような真似して」
首を横に振る。
「なぁ……。その子の父親、俺なってもいいか?」
思考が停止した。
水戸さんが、父親になる?
言ってる意味が噛み砕けず、何度も言葉を反芻していると、焦れたように腕を引かれて、並んでたタクシー待ちの列から飛び出し、建物の壁際に連れてこられた。
「困らせるつもりはないんだ。ただ、俺との未来を考えて欲しいから、話しておきたい。黒川と子供を養えるくらいは稼いでるつもりだ。だから、結婚したら仕事は辞めてもいいし、子育てに専念してくれていい。もし続けるなら育児も家事も協力もする。ただ……夜は接待で遅くなる事が多いから、その辺りは理解してくれると有り難い。それにうちの母親は、昔保育士で子供の面倒見には慣れてるから、黒川は何も憂慮する必要はないし、今すぐにでも、身一つで俺のところにきてくれて大丈夫だ」
水戸さんの急なプレゼンに、思考が追い付かない。
い、今、結婚って言った?
それって、私と夫婦になるって事よね?
育児と家事も手伝ってくれるって……。
「で、でも……他人の子供……ですよ?」
「黒川の子供だろ?十分愛せる」
「でも……ご両親は納得されないんじゃ……」
私が言い淀むと、両肩を掴まれ正面を向かされ、釣り目の力強い双眸が真っすぐ私を捉えた。