なんとか持ち堪えると、就業後も働く人になんて失礼な行為をしてしまったのだと反省し深く頭を垂れた。


「すみません、大変失礼しました……。遅くまでお疲れ様です」

「いや、いいんだ。俺こそほんと悪い。で、黒川はどうしたんだ?」

「……同じ課の河原さんと食事してて」

「こんな時間までか?2人そんな仲良かったっけ?」

「え~と……今日仲良くなったって言うか……」

「なんだそれ?まぁ……兎に角、もう遅いから送ってく」


訝し気に呆れられた。


「大丈夫です。水戸さんもお疲れでしょうし。それにまだ、そんな送って貰う程の時間でも……」


とホームの時計を見て慄いた。

既に終電しか残っていない時間帯で、一体何時間このベンチを占拠してたのかと狼狽し、自分の事ながら狐つままれたかのような気分だ。

終電のアナウンスが流れ、電車が滑り込んでくる。


「これ逃したらヤバイぞ」


水戸さんに手を引かれ、作用と反作用の法則に則り、引かれるままに立ち上がると、ひらっ、手元から何かかが滑り落ちた。

私の落とし物を素早く拾い上げた水戸さんが、それを見て数瞬、大きく瞳を見開き固まる。

あっ、と言葉にならない声をあげて奪うように取り上げると、両手で隠すように胸にエコー写真を押し当てる。


「……黒川……。妊娠……してる、のか?」


水戸さんが驚愕に立ち尽くしていると、また胃がムカムカしてきて口を覆ってしゃがみ込んだ。

最悪のタイミング……。

慌てたように水戸さんが背中を摩ってくれる。

そうこうしているうちにアナウンスが流れ、終電が出発してしまった。

視界に流れて行く電車を捉えながら、涙目で耐える。

息を切れ切れに落ち着くと、ゆっくり立ち上がる。

また迷惑をかけて、乗り損ねさせちゃった……。


「最終だったのに……すみません……」

「いいんだ……。それより、大丈夫か?」


コクリと頷き、まだ不快感の残る喉を押さえる。


「そうか……」


気まずくて、沈黙。