それに、颯ちゃんと香織さんが今のマンションに住んだとして、離れていても両親の交流で私の妊娠が耳に入るのは確実。
そうなれば、颯ちゃんのみならず、香織さんのもとへも報告されるだろう。
香織さんは、颯ちゃんの子供だと勘付くはずだ。
そうなったら私……。
血の気が引くように、指の先から冷えていく感じがした。
急に瞳の前が暗い帳に覆われたような気がして、眩暈を覚える。
それでもーーーー。
「私、自分で思ってるより嫌な人間かもしれません。だって……妊娠を知った今、どうしようとは思うのに、産まない選択肢がないの……」
「そう。でも産むなら色々大変よ?彼と話し合って結婚できないなら、せめて養育費だけでも貰わないと」
首を横に振る。
「確かに黒川さんの都合も解るけど、赤ちゃんは2人の責任でしょ?色々揃えるのも大変よ?オムツにミルク、成長も早いから、その都度服も買わなきゃいけない。育児中の収入は?産後すぐ働くの?その間の赤ちゃんは?何処かに預けたって、小さいうちは、結構保育園から呼び出しだったあるの、産休明けの女子社員見てれば解るでしょ?自分が働ける時間や収入と支出もあるし。人の助けが必要な場面は必ずあるのよ」
河原さんに突き付けられた現実に、突然色味が帯びて少し身震いをした。
実家で暮らせば何とかなるけど、颯ちゃんから子供を隠すとなるとそうはいかない。
何処かアパートを借りて子育てと仕事……後、保育園の申請も……。
後は……えっと…えっと……。
私も、今の家に引っ越してくる前は、両親がしごとで家を空ける時はお祖母ちゃんが一緒にいてくれてて、こっちに来てからは、お父さんが転勤して以降、仕事があるお母さんに代わって夜は颯ちゃんが私の面倒をみてくれていた。
だけど、私の現状ではその未来の姿さえ描けない。
「いいわ。子育て、私が手伝ってあげる。こう見えても、姪のオムツ交換とかで手慣れてるのよ」
不安気な私を見兼ねてか、口角をあげて胸を張る河原さんの気持ちが痛い程嬉しくて泣き笑いしてしまう。
「河原さんが優しいぃ〜〜〜」
悪戯に言うと、また「うるさいっ!」と返されて笑った。
会計を済まして、送ってくれようとする河原さんに、丁寧に辞退して先にきた電車で帰ってもらった。
車内に乗り込む直前に、連絡先の交換をしようとして、私がスマホを持ち歩いてないと言うと心底呆れた顔をされたけど、何かを感じとったのか嘆息して自分の連絡先を走り書きされたメモを渡された。
会社ではぶりっ子だし、怒ると恐いけど、本当にいい人だ。