まさか、颯ちゃんの事を誰かに話す日が来るなんて思わなかったな……。


「私の幼馴染で、初恋の人なんです。ただ……彼には婚約者が居て、私、それを知ってて、数カ月だけ付き合ったんですけど……。彼の婚約者が、私の事調べて釘を刺しに来て……」

「え⁉︎修羅場?それで別れようって?」

「い、いいえ。彼は何も……。彼の家に私が1人で居る時に、婚約者が突然訪ねてきて。私、何も言えないまま部屋から逃げ出してしまったんです。彼とはそれっきり連絡をとってなくて……」


俯く私に、河原さんが大きく溜め息を吐いた。

婚約者のいる男性に言い寄ったって……軽蔑されたかな。

が、そう思ったのは、杞憂だった。


「二股か~……。貴女も不誠実な男に掴まっちゃったものね。男だけが無傷で、女だけが傷つくなんて……」

「いいえ、私が悪いんですっ。婚約者がいるの知ってて……それでも自分の気持ち抑えられなくて……セカンドでもいいから、傍に居たくて。私が、一方的に婚約者に嫌な想いをさせてしまったので、自業自得かなって……」

「でも婚約しといて幼馴染に手を出すとかって、都合の良い女前提じゃない。黒川さん大人しいから、うまく浮気出来ると思ったのかしら?私代わりに仕返ししてきてやろうか?」

「と、とんでもない!」

「だって悔しいじゃない、やられっぱなしっなんて」

「気持ちは有り難いですけど……」

「遠慮しないで。男女の修羅場なんて慣れてるからしっかり仕返ししてやるわよ!」


な、慣れてる⁉︎
不穏なワードに飛び跳ねる。

「………ごめんなさい。私は、騙した方なので……」


意気揚々と拳を握る河原さんに、観念した。

まさか、私の事でこんなに心を砕いてくれるとは予想だにせず、簡単な説明にしてしまった所為で、颯ちゃんだけが悪役の構図が完成してしまい心苦しい。

もとは私がりこになったのが原因なのに。


「彼は、私が幼馴染の黒川梨々子だと知らないっていうか……。私、美容部員の友達がいて、その娘にメイク教えてもらって、変装した私を『りこ』だと思って付き合ってて、だから、私が彼女だと認識してなくて……ごめんなさい、言ってる事めちゃくちゃですよね」


こめかみを押さえて考え込む河原さんに語尾が小さくなる。

どうしたらうまく伝えられるだろう。