「昨日、水戸さんが言ってたけど、黒川さん彼とはうまくいってないの?てか、居たのね」
「い、一応……?でも……もう、別れてしまって……」
伏せた瞳の先で、テーブルの上で無意識に握りしめた手が微かに震える。
「そうなの?二股しようとした訳じゃないのね。私はてっきり、彼とうまくいってないから水戸さんの気を引こうとしてるのかと思っちゃった。人は見かけによらないって言うじゃない?大人しい顔して裏では意外と男を手玉にとる人なのかと思って」
「そんなっ、二股なんて有り得ません」
「悪かったわよ。私の思い過ごしみたいで良かった。よく考えれば、黒川さんが男を掌コロコロなんて器用なマネできる訳なかったわね」
私が心外とばかりにムキになって言うと、テーブルに両肘をついた河原さんがお腹を抱えて笑った。
「水戸さんが黒川さんを好きだっていうのが少し解った気がする。最初、経理の野村さんも三沢さんも、何故こんな陰気な娘を気遣ってるのか不思議で仕方なかったけど、こんな容姿のクセに仕草が可愛いのよね」
悪口ではないはず、たぶん。
「黒川さんは水戸さんを何とも思わってないの?我が社が誇る王子だよ?顔も良いし、それなりに稼いでるし、将来性も含めてなかなかいい物件じゃない?」
え、河原さん、水戸さん好きなんですよね?
好きな人をいい物件扱いって……。
なんか、水戸さんの中身について言及がない物言いに、これも恋愛の形の1つなのかな?
社内でも恋愛話をしてる女子社員が『いい物件』と揶揄してるのを耳に入ってくるし、そういうモンなのかな?
「……素敵な人だとは思いますけど、恋愛対象では……」
「ないの??じゃあどんな人がタイプなの?元彼ってどんな人?どうして別れたの?やり直すとかないの?」
矢次に質問されて、瞳が白黒する。
そして、颯ちゃんを思い浮かべれば、胸が苦しくなった。
いずれ別れると解って付き合って、いざ別れの時がくると本当に辛くて、毎日泣いてた。
やり直しなんて出来る訳がない。
だって、颯ちゃんはもうすぐ結婚するんだもん。
どんなに足掻いたって、私のものにはならない―――。
躊躇う気持ちもあるけど、一緒にご飯を食べた事で、河原さんへの警戒心は軽減されていたんだろう。