「河原さん、ここ……ですか?」
「雰囲気いいお店でしょ?」
「さっき通りかかった和食のお店にしません?急に和食な気分なっちゃって」
「残念ね、私はイタリアンな気分なの」
「そこを何とか……」
「何よ。文句あるのっ」
「……アリマセン」
棘を孕むような口調で凄まれてしまっては返す言葉もなく、すぐ引き下がる。
どうしよう……。
此処は颯ちゃんの友人、小林さんのお店だ。
今日はメイクしてないし、服装も地味だし、髪も前髪おろしてるし眼鏡だし。
どこからどう見たって、私がりこだと解らないはずなんだけど……。
いつ颯ちゃんが立ち寄るかは解らない危険性を秘めている。
回避も試みたけど、河原さんは受け入れてくれる様子もないし、鉢合わせしてしまったらどうしよう……。
あ、河原さん重厚そうな木製のドアを開けて先に入って行っちゃった。
渋々私も入ると、
「いらっしゃいませー」
人懐っこい笑顔で、色黒なワイルドな男性が迎えてくれる。
ダメだ、直視出来ない。
俯いて目立たないように河原さんの影に隠れる。
「彩名ちゃん、久しぶりだね~」
颯ちゃんの友人、小林さんが河原さんの名前、しかも親し気に下の名前呼びをした。
まさかの知り合い!?
「ご無沙汰してま~す。だって~いつ来ても満員で中々入れないんだも~ん」
「そっか、悪いね~。今日は個室空いてるよ」
「良かった~。久々なので楽しみに来たんですよぉ~」
いつも会社で瞳にいる河原さんのぶりっ子と、小林さんのフランクな会話に1人ドキドキする。
そんな私を無視して「後ろの彼女お友達?」と小林さんの瞳にとまってしまう。
俯いたまま軽く頭を下げる。
りことリリーでは大分印象が違うはずだから、バレないと解っていても、緊張して心臓がおかしくなりそうだ。
「あれ?うぅ~ん??」
小林さんが訝し気に唸り声をあげる。
気のせいです、気のせいです!
お願いだから、どうか気づかないで!
「もう~、小林さん。お腹空いてるので、早く奥に通してもらってもいいですか?」
天の助けとばかりに、河原さんが頬を膨らましてせがんでくれた。