泣きじゃくる私の頭を、颯ちゃんは子供をあやすように優しく撫でた。

大きな手は、私を安心させてくれる。


「17年一緒に居て、俺がリリーに気づかない訳ないでしょ?高坂病院のパーティで会った時、一目でリリーだと解ったよ。だけど、リリーが必死に隠すから可愛くて……。顔も隠さず、着飾るリリーは凄く綺麗で、もっと見ていたいって思った。ただ……隣に他の男が居たのは気に食わなかったから、大人気なく奪ってしまったけどね」


颯ちゃんは自嘲した。


「リリーと一緒に暮らす事も、俺に全てを捧げくれた事も嬉しかった。どうせこのままずっと一緒にいるんだから、リリーでもりこでも関係ないって思ったんだ。だって、俺にとって容姿が変わろうと変わるまいと、どちらも黒川梨々子に変わりなかったから。それがリリーを苦しめてしまったなら、俺の責任だ。後、香織なんて関係ない。リリーは愛人じゃないし、今までもこれからも、俺が愛するのは黒川梨々子だけだよ」


颯ちゃんの告白に、ますます涙が込み上げてきてとまらない。

瞳を覆う手を取り外され、涙でぐちゃぐちゃに濡れた顔は空気に触れてスースーした。


「今ぐちゃぐちゃだから見ちゃヤダ」

「可愛いのに」


ぷうっと唇を尖らせる私に口づけ、新たに溢れる涙は颯ちゃんが唇で掬い取る。

颯ちゃんが自分の顔の前に私の右手を引き上げる。

私の右手の薬指には、颯ちゃんから貰った指輪がある。


「離れてる間も、ずっとしてくれてて嬉しい」


傍に居られない分、指輪が唯一の颯ちゃんとの繋がりだっから、片時も離さなかった。

その指輪に口づけをされる。

愛撫をするように、右手と指輪にキスを注ぐ。

まるで、宝物に触れるかのような優しく柔らかな感触。


「これに俺の想いのすべてを込めてある。全部片付けたら迎えに行くから、それまで俺を信じて待ってて」


色素の薄い茶色の瞳が弧を描き、私の瞳から一筋の涙が流れた。

どちらともなくお互いの額を合わせ、甘えるように鼻頭同士をすり合わせる。

擽ったさに2人でくつくつ笑い、触れるだけのキスを交わした。