「リリー」


唇の隙間から発せられた名前に、我に返る。

そうだ、今の私はりこじゃなく、リリーだ。

なのに、どうして颯ちゃんとキスしてるの?

私がりこだったのが暴露された?

いや、それなら激怒されても、こうして感情のこもったキスはされないはず。

じゃあどうして?

でも、そもそも何故此処に颯ちゃんがいるの―――?

渋滞する疑問が1つの結論を出した。


―――ああ、そうか、これは夢だ。


りことしてではなく、リリーとして颯ちゃんに愛されたかったという渇望が生み出した夢なんだ。

あれだけ会いたいと願い、こうして夢に見る程、私は颯ちゃん欠乏症なのだ。

そんな自分が滑稽にも思えるけど、それでも、これが夢でも大好きな人に会えた事がとても嬉しい……。


「リリー、どうして突然俺の前から消えたの?あの日……マンションに居た形跡はあったのに、スマホと合鍵を残して君は消えてしまった。連絡はつかなくなるし、家に会いにきても小母さんに門前払いをされる。……もし、リリーに嫌われるような事をしてたなら、教えて欲しいだ。何度だって謝るし、リリーが望むなら土下座だって何だってする」


切実な訴えに、私も心が軋む。


「……それとも、他に好きなヤツでも出来た?俺にはもうあきちゃった？」

「そんな……!好きな人なんて出来てないし、飽きるなんてあり得ない！私はずっと颯ちゃんが好き……」

「じゃあなんで!?……なんで、俺から離れるの……」


小さな子供が親に突き放されたように、颯ちゃんが今にも泣きそうに顔を歪める。


「あれだけ俺のものだって身体に刻んでも解らないなら、解るまで抱くよ。俺のお仕置き方法……知ってるよね?」

「—――え?……」


瞳を眇め、ネクタイを緩めながら、私をベッドに押し倒すと、私の前髪を上げた。

不細工なリリーの素顔を晒されて、一瞬息を飲んだものの、ご都合主義の夢の中では颯ちゃんに動揺は迷いはなかった。

寧ろ私の方が慌てて身体を捩るけど、男の人の力でベッドに組み伏せられる。

絡まる視線の先に哀しみと瞋恚が入り混じった炎が灯った瞳があった。