その人は此方に近づくと、私の頭に手をのせ、子供をあやすような優しく撫でた。

なんで……どうして……此処にいるの?


「瞳が覚めたんだね。気分はどう?喉渇いてない?」


喉は……乾いてる。

お酒の所為か、寝起きの所為か。

思考はまだ靄がかかっているようで明瞭ではないけど、身体は明らかに渇きを訴えている。

静かに頷くと、携えていたミネラルウォーターのボトルの蓋を開けて差し出された。

事態を了知出来ないけど、兎に角渇きの欲求には抗えずペットボトルを受け取り、口をつける。

だけど、動揺してる所為か、まだ酔っているのか、ふらふらする身体と思考が噛みあわず。

口角から水を零してしまい、うまく飲めない。

仕舞いの果てに手が震えてペットボトルを落としそうになって、颯ちゃんがキャッチしてくれた。

無意識に「うぅ……」と唸ると、颯ちゃんがペットボトルの水を自ら含んだ。

カーテンの隙間から、しっとりとした月明かりが差し込み、上を向き口元を濡らすその仕草は艶っぽく、綺麗で見惚れてしまう。

ぼーっと見ていると、颯ちゃんの顔が近づき、唇を塞がれた。

身を引こうとしても、後頭部を手で押さえられて前後左右どちらにも動かせない。

口を開くと、冷たい水が流れ込んできて、コクンと喉が上下した。

行為を拒絶しながらも、身体は正直に水分を欲していて「もっと……」と呟くと、颯ちゃんはまたペットボトルに口を運んで咥内に含み、親鳥に雛鳥に餌を与えるよう飲ませてくれる。

私が飲み終えたのを見計らったかのように、舌が侵入してきた。

私の舌を絡みのとると、焦らすようにゆっくりとした動きで何度も角度を変えて深いキスが続けられる。

颯ちゃんとのキスはとても馴染んだもので、熱の心地良さを知っている身体は、咥内を甘く蹂躙されると火照り始める。

時折鼻にかかるような甘い声を発しながら、口からもれる水音が、室内に煽情的に響いていた。

なけなしの理性が頭の片隅で疑問符が乱列させている。

どうして、此処に颯ちゃんがいるの?

なんで、今、私とキスしてるの?

心の引っ掛かかりと今の状況を把握しようにも、追いかけてくる快楽が思惟に靄をかける。

ただただ、久しぶりのキスが異常に気持ち良い……。

思考も既に溶けそうで、もう何も考えられない。