なんて勿体ない……。

まして、姫抱っこをしてくれているのが、我が社1のイケメン!

貴重な体験すぎて……あぁ、明日河原さんが恐ろしい。

しかも、凄く懐かしいような良い匂いがして、安心する。

私を支える手の大きさや、頬を寄せる胸元らしき壁があたたかくて心地良い。

男の人って皆こんな感じなの?

颯ちゃんしか知らない私には意外な発見である。

とても落ち着く感じに、思わず頬を摺り寄せると、額に柔らかな感触が落とされた。

擽ったくて「ふふっ」と笑って身を竦める。

バタンと何かが閉まる音がした。

あ、タクシー独特の匂いがする。

そうか、タクシーで帰るのか。

確かにこの状態で電車乗れないもんね。

車の揺れが凄く心地良い……。

しかも、水戸さんの真綿を包むような優しい包容に、今まで強張っていた私の芯を揉み解されるみたいに全身から力が抜けた。

そして、意識を完全に手放す直前に思い出したのは、さっきのお店の近くに颯ちゃんが居たこと。

ああ。

会いたいよ、颯ちゃん。


―――。

―――――。

―――――――………。

酷く喉の渇きを感じて、重い瞼をあげた。

帳がおりた空間は、焦点が合わずぼんやり見つめる先は、毎夜毎朝瞳にしている私の部屋の天井だった。

まだ室内は暗く、時間的に真夜中でろうと悟る。

凄く眠いのに、睡魔を上回る異常な喉の渇きに疑問を投じながら、何度か瞬きをした。

私、どうしたんだっけ。

渇きの経緯を巡らせ、池田の小父さんの送別会だったな、と思い出す。

ウーロン茶とお酒を間違えて飲んで……その後から記憶が曖昧で、またお酒の失敗かと自嘲してしまう。

微かに残る記憶に、水戸さんの声が残ってるから、水戸さんが送ってくれたんだろう。

それから、タクシーに乗って……。

現在自分のベッドに寝ているって事は、きちんと帰ってこれたらしい。

水戸さんにはまた迷惑を掛けてしまったようで、ひたすら猛省しかない。

それにしても、あの状態で無事帰宅が出来るなんて、私の帰巣本能はなかなかのものだわ。


「はぁ……」


仕事中や誰かと一緒だと気は紛れるのに、こうして1人になると心が訴えてくる。

会いたいよ、さみしいよ、て。

今すぐ抱きしめて欲しいって、苦しくなる。

だけど、私はその心の声から瞳を逸らすしかない。


「喉、渇いたな……」


冷蔵庫のミネラルウォーターが入ってたはず。

取りに行こうと、重い上半身を起こすと、部屋のドアが開いた。


「リリー?」


私をそう呼ぶ人を、私は1人しか知らない。

見つめた先に、私の大好きな人の姿をとらえ、瞠目した。