「酒、弱かったよな……」


耳元で、水戸さんの声がして瞳を閉じてるせいか、聴覚が敏感になってドキドキ……。

て、もうお酒のせいなのか吃驚したせいなのか、よく解らない。

そう言えば空きっ腹にお酒は、酔いが全身に回りやすいって聞いた事があったっけ?

その前に、河原さんに揺らされたのが効いたかも……。

「黒川大丈夫か?」

「だい、じょ……ぶ……」


なんだか、ふわふわして凄く眠い……。

瞳を閉じると、意識が遠のきそうになる。


「こりゃダメだな……。俺送ってくから、おまえら2次会行っとけ。黒川歩けるか?」

「ふぁ……い……」


遠くの方で聞こえる会話の様子から、野村さんと三沢さんに2次会へ行くよう促しているような雰囲気だった。

なんとか絞り出した私の返事は、間抜けな声音となってそれ以上を言うのは口が重く、短い言葉以外を発するのが億劫で仕方がない。

だからと言って、1人で帰れますとも言える状態ではないのも頭の隅で理解している。

毅然としていたいのに、身体が思ったように動かせないのだから……。

もうこのまま眠ってしまいたい、そう思った時。

周囲の音が急に慌ただしい喧騒へと変わった。

なんだろう……。

だけど、意識を浮上させたくても引っ張られる感覚の方が強くて、そこに身を委ねたくて堪らない。

意識が落ちそうになるたび、水戸さんの声で引き戻されて、かろうじでふらふらの足を動かしてはみるけど、あまり力が入らなかった。

う~ん、もういいからこのまま此処で放っておいてくれないかとすら思ってしまう。

頬に風があたる感触がして、外に出たんだなとは思った。

車の音や、沢山の人が喋る声。

私以外に酔った女の人がいるのかな?

キャーキャー騒がしい声がする。

また女子社員が水戸さんに騒いでるのかな。

肩に感じてた圧迫感が一瞬解けて、身体がふわっと浮上した気がした。

膝の裏と背中が、何か支えられてる気配がする。

あ、もしかして、俗に言う姫抱っこ?

だとしたら、不細工な私には、こんな乙女の憧れの貴重な体験、もう一生出来ないかもしれない。

この歴史的瞬間を是非瞳に焼き付けたいのに、瞼が重くて開けない。