小さい頃、よく颯ちゃんと公園で遊んだりしてるところを「仲良しね~」と声を掛けられたものだった。
でも、今その話題には触れてほしくない。
「あ、あのっ、池田部長には色々と世話になり、本当にありがとうございましたっ!」
話題を変えるように、今日の目的である月並みなご挨拶をさせていただく。
女子社員が怖くて近づけなかったけど、これはチャンスだ。
「いいんだ、いいんだ。此方としても急に欠員がでて、すぐ入社して貰えて寧ろ助かったんだ。昔から梨々子ちゃんを娘のように思って見てたから、一緒の会社で仕事が出来て凄く嬉しかったよ」
池田の小父さん、優しい。
まだ1年しか働いてないけど、この会社が1人欠員したくらいで差し支えない事を知っている。
池田の小父さんが口利きをしてくれたのは明らかなのに、私が気にしないようにしてくれている。
その好意に無にしないよう「私もです」と答えた。
「ところで……、さっきちらっと聞こえてしまったんだけど、梨々子ちゃんは彼氏がいるのかい?それ、颯吾君は知っているの?」
乗り切ったはずの話題に、爆弾が投下された。
口にしたウーロン茶を「ぶはっ」と吐き出してしまい慌てて口を押える。
片手は布巾でテーブルを拭く。
もう~、小父さん天然なの??
話題変えたのは明らかだったのに、また話を戻すって、それ本当に天然なの??
よくよく見ると何処か虚ろで。
あ、酔っ払いるんだ。
だからって、人の過去をこんな公の場で暴露しないでほしい。
チクチク痛む胸が、苦しい……。
「部長、黒川、彼氏とうまくいってないみたいなんですよ」
水戸さんが追い打ちをかける。
吃驚して水戸さんに向くと、しらっとビールを煽っていた。
さっき、この話題を曖昧にしたつもりが、水戸さんには上手くいってないとバレてたらしい。
「梨々子ちゃん、それ颯吾君知ってるの?」
睨むように水戸さんに訴えると、片方の口角をあげてほくそ笑むように悪い顔で見返して来た。