時折、般若の形相で此方の様子を静視している姿が視界の端に入って恐い。

同期でもない私が此処にいるに納得いかないって顔してる。

私だってこんな居心地の悪い席は辞退したいんですけど。

水戸さんは周囲(主に女子)を気にする様子もなく、野村さんと三沢さんと話している。

居たたまれず、そわそわしていると、水戸さんが私を向いた。


「黒川は?」

「……え?」


しまった、全然聞いてなかった。

告白を断ってから、会えば挨拶を交わす程度の接触しかなかったから、改まって話しかけられるとどう対応をしていいのか戸惑う。


「彼氏とは順調?」


彼氏……。

そうか、愛人とは言っても、一応お付き合いしてたから肩書は(元)彼氏になるのか。

鼻の奥がツンとして、ヤバイ、泣きそう。

否定も肯定もせず、曖昧に笑いながらグッと堪える。

野村さんも三沢さんも「彼氏?」「やっぱり彼氏居たんだ」とひそひそ交わしながら興味深そうに注視してくる。

脳裏に颯ちゃんの顔がかすり、胸が潰れそうなくらい圧迫感を感じていると、


「篠田颯吾?」


タイミングよくその人の名前を鼓膜がキャッチしてしまい、背筋が震えた。

その名前の発信源に視線を泳がせると、通路側に座る女子社員が数名が、またまた黄色い声をあげていた。


「さっきちょっと外に出たら、篠田颯吾が歩いてるの見たの!」

「ウソ―!見たーい!」


女子社員達が色めき立った。

颯……ちゃんが、いる?


「なんか偉そうなオジサンと一緒だったよ」

「まだ近くにいるかな?」

「ヤバイ。ちょっと抜けて外行ってみる?」


私の耳は、女子社員の言葉を聞き逃すまいとしている。

諦めるって決めたのに、会いたいって思ってしまう。

少しでいい。

遠くからでいいから、一目姿が見たい。

だけど……見たら駆けだしてしまいそうで怖い……。

寧ろ、見たいという願いすら罪のように思えて、心に重くのしかかった。

瞼を伏せると、


「黒川さん」


名前を呼ばれて顔を上げると、池田の小父さんがグラスを持って同じテーブルに着いた。


「池田……部長……」

「颯吾君は、相変わらずモテモテだね」

「……はい」


私達がずっと一緒に居るのは近所でも有名だった。