「今日出席でいい?」
資料室で、ファイルを整理していると、早苗先輩がやって来てたずねられた。
「え?」
「え、じゃなくて、前話したじゃない。池田部長が退職されるから送別会をするって。今日なんだけど」
しまった……。
全然頭に入ってなかった。
お酒の席なんて、人見知りをする私には苦痛でしかけど……。
そっか。
池田の小父さん、退職するんだ。
普段なら適当に都合つけて欠席いるところだけど、私をこの会社に就職させてくれた小父さんには、大きな御恩がある。
その人の送別会となると話は別だ。
「すみません。出席でお願いします」
返事をするとその場で会費を徴収された。
流石、早苗先輩抜かりなし。
時計を見ながら、資料の整理を急いだ。
今日は皆、早めに仕事を切り上げて、飲み会会場向かった。
部長の送迎会ともあり、うちの課からだけでなく、他の課からも何人か出席しているようで、総勢ざっと見30人はいるかな?
案内された部屋は座敷で、襖を取り払われフラットにされていた。
何処に座ろうか、空いてる席を探していると、
「黒川さ~ん、こっちこっち」
野村さんと三沢さんが手を挙げて呼んでいた。
特別仲のいい人もいないし、座れれば何処でもいいので大人しく2人の方へ向かい、空けられた席に腰をおろす。
有り難い事に、隅の席で、全体が見渡せる位置づけだった。
中央あたりに女子社員が集まり、キャッキャっと黄色い声が飛んでいた。
そこには池田の小父さん、もとい池田部長が鎮座し、その隣には水戸さんの姿があった。
勿論、黄色い声は池田部長に向けられたものではなく、明らかに水戸さんに向けられていて、
「誰が主役か解らないね」
三沢さんが言った。
水戸さんの隣は、我が課のアイドル河原さんがシッカリ陣取っていて恋する女は強いな~と感心してしまう。
「水戸を呼ぶと女子の出席率上がるから、早苗さんが声を掛けたみたいだよ。席まで同じにして」
あそこだけサバンナだと野村さんが面白くなさそうに唇を尖らせると、すかさず女豹の群れだと三沢さんがツッコんだ。
私は苦笑する。
本当、流石早苗先輩。