何も考えないフリをしてても、胸が張り裂けそうだよ。

私の覚悟は机上の空論と同じで、実際対面した現実の別れは、身が裂かれそうなほど苦しい。

それでも、陽はのぼるし、明けない朝はない。

時間は着実に進んでいるのに、私の心は遠く懐かしい日々を彷徨ったまま。

嬉しい日も悲しい日も、私を守ってくれた、あの優しい手を探してる。

幾度夜を越えて、幾度朝を迎えても、取り戻せない温もり。

会いたい……会いたい……。

でも、会えない。

会いたいが膨らみすぎて、気がおかしくなりそうだった。

そんなループする想いを持て余し、悩んでも仕方ないのに。

悩んで、悩んで……悩んで、悩んで。

悩んだ先に待っているのは、袋小路で自業自得という言葉。

私には、この会いたい気持ちが減っていくのをひたすら待つしか出来ない。

想いを叫べたらどんなに楽だろう。

だけど、それすらも許されず、颯ちゃんを回避し続けるのが私の贖罪なのだろう。





「黒川、大丈夫か?」


会社のエントランスで声を掛けられた。


「水戸……さん。おはよう、ございます」

「最近ずっと顔色が悪い。家に帰った方がいいんじゃないか?」


最近……、まるでずっと私を気に掛けてくれている言い草だった。

私は唇に弧を描く。


「大丈夫ですよ。確かにちょっと体調悪いですけど、特に問題ありません」

「問題ないレベルじゃないから言っている。アイツと……篠田颯吾と、何かあったのか?」


私の心を探るかのように、瞳を細め真っ直ぐ射抜いてくる。

同じ課の同僚には、これで通せても、人の顔色を窺う職種の人には通じないか……。

それでも言い逃れるしかない。


「ダメだと思ったら早退します。お気遣いありがとうございます」


表情を崩さず会釈してその場を辞すると、自分が所属するフロアへ向かった。



颯ちゃんが居ない私の生活は、渇望で満ちていた。

砂時計の砂が落ちるようなゆっくりとした時の中で、隣に居たはずの面影を探して、私は時間を持て余す。

『会いたい、でも会えない』

何度もわいてくる想いを、そのたびに打ち消す作業を後何度繰り返せばいいんだろう。

大好きな色素の薄い茶色の瞳が、私を映し出す事も、もうない。

解ってる、解ってるのに……。

大きな穴の空いた心は、滂沱の涙を流していた。