出来るだけ遠くに……。

早くその場から消えてしまいたかった。

香織さんは、私の事を颯ちゃんにもう連絡してあるのかな?

ううん。

多分、自分が仏の顔の内に、私に身を引けと警告に来たんだ。

黙っててやるかわりに、もう関わるなって。

私の罪は免れない。

別れなければ、私を『丸裸』にするって。

ずっと隣の家の女の子だと、家族として大事にしてきた娘に騙されて愛人関係を結んでしまった。

りこがリリーだと知ったら、颯ちゃんはどう思うだろう。

大好きな人の顔が、私への失望に歪むのを見たくなかった。

今夜を最後に、なんて悠長に考えてる余裕なんてない。

颯ちゃんから貰ったスマホはテーブルの上に置いてきたし、合鍵もポストに残して来た。

ちゃんとお別れは出来なかったけど、これで終わりだと、颯ちゃんは悟ってくれるだろう。

瞳から次々と零れ落ちる涙を幾度となく手の甲で拭い、通りすがりのタクシーを止めた。

行き先を告げると、抱いた荷物に額を押し付ける。

込み上げてくるものが止められなかった。

車内は、ラジオから流れる音声と、私の嗚咽だけが響く。

遅かれ早かれ、別れは免れなかった事だ。

幼馴染のリリーは颯ちゃんから距離をとり、恋人のりこは颯ちゃんと別れなければいけない。

どんなに一緒の時を過ごしても、どんなに身体重ね睦言を交わしても、私達の間に確実な物なんて何一つなかった。

リリーとの間にあった信頼すら、自らの欲望の為に裏切った。

後悔するなら、はじめから諦めたままでいれば楽だったのに……。

そうすれば、誰も苦しまず誰も不幸にする事もなかった。

甘い蜜だけ吸って、綺麗な思い出だけで終わろうなんて、そもそも都合よすぎたんだ。

だけど、こうなるのを解っていても、私は自分の想いと衝動はとめられなかっただろう。

ずっと……ずっと大好きだった人とキスをして。

手を繋いで、彼方此方デートして。

何度も身体を重ねた。

これはきっと、人を欺いて傷つけた代償。

いつか、私が変装して颯ちゃんを騙してた事、香織さんにバラされちゃうかな。

もし、颯ちゃんがりこだと思っていた女の子が、本当はリリーで。