「たかがオママゴトの遊びで、2番目のクセに派手にやらかしてくれてんじゃないわよっ」
やらかす?
何を?
私が意味を理解していないと悟ると、怒気を含み睨みつけられる。
「貴女の会社の前で、颯吾と貴女が人目も憚らずキスしてたって、俄かに噂が立ちは始めてるわ。身に覚えがあるでしょ?」
「あ……」
「あら?噂は事実みたいね」
あれだ。
メーカーさんに襲われた私を落ち着かせる為に、颯ちゃんは衆目も憚らず私にキスをした。
あの時目撃されたのが、もう……噂になってるんだ。
「表向き、私は結婚前の遊びを許す寛大な婚約者ってなってるみたいだけど、いつまでも野放しって訳にもいかないの。いい加減、子供のお遊びに付き合ってる時間なんてないわ。私達、近々結婚するの。颯吾が父に挨拶してくれたみたいで、式の準備でこれから忙しくなるわ。貴女も、いい加減お伽話から瞳を覚まして、お家にお帰りなさい」
冷たく力強い瞳が、私を睨み付けると、雑誌を投げつけた。
足元に落ちたビジネス雑誌を虚ろに見つめていると、
「付箋してあるとこ、じっくり読むことね。さようなら、オ・オ・カ・ミ・少女」
そう言い残して、コツコツヒールを響かせながら香織さんは帰って行った。
冷たく感覚のない手は細かく震えていた。
力なく、ドアノブをはなすと、ドアがバタンと閉まる。
瞳の前は、もう行き止まり。
此処が、私と颯ちゃんの終着点。
私達の……終わり……。
「オママゴト……」
その呟きを合図に、堰を切ったかのように身体を翻し、荷物を置いている部屋に向かって走った。
クローゼットを開けた、ハンガーに掛かってのいる物も、畳んである衣類も鷲掴みすると、乱雑に紙袋に詰め込んだ。
颯ちゃんからのメッセージ、何時に届いてたっけ?
早くしないと帰って来ちゃう。
その前に、早く、早く―――。
着替えもせず、ヒールの高い靴に足を突っ込むと、マンションを飛び出した。
後は、兎に角、ひたすら走った。
ヒールで走り難いなんて気にしてられない。
途中、何度も何度も転びそうになったし、足首を捻りそうになった。
だけど、そんなのに構ってられない。
早く……早く……。