未だ継続される涙ぐましい努力だと、我ながら感心してしまう。

これで颯ちゃんの傍に居られるなら、易い努力だ。

鏡に映るりこを角度を変えて確認。

いつもと変わらぬ日常。


その日も、それまではいつもと何も変わらなかった、はずだった。

りこ顔が完成したと同時に、インターホンが鳴った。

あれ、ちょっとおかしい。

私は小首を傾げながらも出迎えに向かう。

颯ちゃん、いつもは自分で鍵を開けて入ってくるのに……酔っちゃったのかな?

お酒は強いはずなのに、と訝しがりながらも「おかえりなさ~い」とドアを開けた、瞬間。

息が……とまるかと思った。

金縛りにでもあったかのように、その場で身動きがとれず棒立ちになる。

瞳の前には、明るめのブラウン色の長い髪を巻いた美女が居たのだ。

アイラインを長く引いた瞳と、私より10㎝くらい背が高く、大きく開いたデコルテから覘く深そうな谷間……。

縊れたウエストの下に、女性らしい丸みを帯びたヒップと細い脚。

何処か外国の血が入っているのかと思わせる彫りの深い顔立ち。

圧倒的な美女オーラと言うのかな?

言葉を失い立ち尽くした。

えっと……この人は誰?

颯ちゃんの知り合い?

でも、このマンションの事は同級生の2人と私しか知らないはず。

じゃあ、マンションの住人のお客様?

部屋を間違えたとか?

美女も、値踏みをするのように私の頭の先から足の先まで無遠慮な視線で舐め上げ、観察を終えると口端をつりあげた。

妖艶な人だな……。

同性ながら、ついドキッとさせられる。


「あの……部屋をお間違えでは……」


掠れ消え入りそうな声でたずねると、美女は嗜虐的な微笑を浮かべた。


「いいえ、合ってるわ」


真っ赤な唇から発せられた声は、鼻にかかるような甘さを含み色っぽい。

何処かで、聞いた覚えがあるような……。

思考は一気に、あの日水戸さんに連れられて行ったパーティ会場まで遡り、ゴクリと喉が鳴った。

そんな……まさか……。