「君が他人に触れられるのも傷つけられるもの耐えられない。君は俺だけのものだ。愛してる……。君だけを愛してる。だから、俺だけを見て。俺だけを信じて」


だから今日の事は早く忘れて、の囁きに目頭が熱くなった。

優しく触れる手や唇。

いつも以上に激しい律動は、今日の出来事を私の中から吹っ飛ばしてくれそうな勢いで。


「そ……そう……颯吾さん……き。好き、なの。颯吾……さん、だけ……」


こんなセリフ、りこでしか言えない。

だから、リリーじゃ出来ない事、いっぱいしたいの。

終わりが来るその日まで、リリーの想い、いっぱい伝えるから。


「颯、吾さん……好き。……大好き。颯吾さんが、居れば……何もいらない」

「俺も……君が居ればそれだけでいい……」


いつか離れてしまうなんて考えたくないよ。

このままずっと繋がっていたい。

ぎゅっと抱きしめられ、深い口づけに飲み込まれ、2人の熱が混ざり合って溶けていった。




その後、会社のメーカー担当者が変わり、新しく着任した担当の人が挨拶にきていた。

担当変更の理由は語られなかったけど、後々流れてきた噂では、あの私を襲ってきた男性は、翌日偉い人に呼び出され、即日懲戒解雇されたのだとか……。

なんとなく甦る言葉『念には念を』。

…………まさか、ね?

一抹の不安を抱えながらも、私の毎日は充実していた。

週の半分はお母さんが日勤で家に居るから自分の家に帰るけど、夜勤の時は颯ちゃんのマンションに泊まるのが定例となっている。

『鏡よ鏡よ鏡さん。私は後何度りこになれるのかしら?』

この問いかけも、後何度できるんだろう。




「黒川さん。これ、領収書の返却と記入漏れで営業までいってきてくれる?」


毎月の事なのに、いつになったらまともな領収書が書けるようになるのかしら、と早苗さんが吐き捨てる。

返事をして立ち上がり受け取ると、いつもの如く河原さんがひょっこりあらわれた。


「早苗さ~ん、私ぃちょーど営業の方に用があっていくので代わりに行ってきますよ~」


横から領収書の束を奪うと、にっこり微笑む。


「そう?じゃあ、お願いするわ」