颯ちゃんのマンションに到着して、玄関ドアを開けると、バターやトマトソースの匂いがした。
リビングに行くと、ダイニングテーブルにのせられたオムライスが二皿、ラップがかけられている。
まさか、颯ちゃんが??
自分の好物を前に、さっきまでの件を忘却の彼方へ。
オムライスに近づき、少し興奮して見下ろす。
懐かしい。
昔、お母さんが夜勤の時、颯ちゃんがよく作ってくれたんだよね。
私が料理を覚えてから、食べる機会こそ減ったものの、颯ちゃんの作るオムライスが大好きだった。
また食べられる日がくるなんて……。
嬉しさで感動していると、着席しようとするように促され、オムライスは横にズラされた。
「君にも反省とお仕置きをしなきゃね」
私はさっと青褪めた。
昔から颯ちゃんには怒られず、自由に振る舞わせてもらっていた自負はある。
ただ、1度だけ颯ちゃんが同級生の男女数人と出掛ける姿を目撃してしまった私は、幼いながらにシッカリ嫉妬し、自宅のクローゼットの奥に引きこもり、そのまま眠ってしまった事があった。
瞳が覚めた時は、どっぷり夜も更けて、クローゼットで衣類に埋もれる私を鬼のような形相で見つめる颯ちゃんの姿があった。
その後、私は颯ちゃんにお尻を100回(若干盛り気味)叩かれて、椅子に座れない位辛い思いをしたのを覚えている。
ある意味、私の人生初めての挫折と言うか苦渋というか……。
颯ちゃんを怒らせると本当に痛い。
仮令、あれが子供に対するお仕置きだとして。
りこの姿の今は、お尻ぺんぺんはナシにして、どんなお仕置きが待っているのか……。
向かい合うように席につき、颯ちゃんは腕組をした。
「さて。思い出させて申し訳ないけど、きちんと説明してもらいたいんだ。まず、パソコンの不調でメーカーをよんだんだよね?」
コクリと頷く。
「メーカーの時間外だけど、帰り道のついでに修復に寄ってくれるらしいから、今日は遅くなるって、俺に連絡くれたよね?それで?あの男が来てからはどうだったの?」
「どうって……。普通にパソコンをみてってもらって、パソコンの説明とかよく解らないけど何か色々話しかけてくるから、失礼がないよう相槌をうって聞いてただけ」