そう言えばMRって毎日のように接待してるって野村さんいってたかも。
欠伸をする水戸さんは、とても疲れて見える。
「パソコンの復旧はかかりそう?」
「たぶん……?」
私に聞かれても解らない。
疑問に疑問で返すと、また時計を確認した。
「……一緒に行こう」
つてくるように顎で促し、水戸さんはどんどん先を行ってしまう。
訳が解らないまま、自販機からコーヒーを取り出すと、水戸さんの背中を追いかけた。
着いた先は、私が所属する経理課のフロア。
私達が2人で現れると、メーカーの人は硬直した。
「まだかかりそうですか?」
物音ひとつしないフロアに、営業スマイルの水戸さんが、いつもより低さを増した声を響かせた。
メーカーさん、この人我が社1のイケメンです。
そんな人に笑顔を向けられるなんて、女子社員に嫉妬されちゃいますよ。
さっきまで真っ赤だったメーカーさんの顔色が、血の気を引いた青に染まる。
「あ、あ、あああの、い、今っ。ちょーーーど今、終わりましたっ」
機材をバッグにしまい、挨拶もそぞろにさっさとフロアを飛び出して行ってしまった。
あまりに素早い動きに呆気に取られて立ち尽くしていると、水戸さんがパソコンを起動させチェックを始める。
この箇所がどうで、この箇所がああでとやたら言ってたから、まだ復旧に時間がかかるんだと思ってた。
機械系は弱くて全然解らないし。
家電の配線とか、いつも颯ちゃんがやってくれてたしな。
あ、買ってきたコーヒー、渡し損ねちゃった……。
握っていた缶コーヒーに視線を落とすと、隣から舌打ちが聞こえた。
「黒川、その姿の時はなるべく男と2人になるな」
「え?」
「おまえ、化粧してると危ない」
どうして私が化粧してると危ないんだろう。
言葉のを反芻してみても、さっぱり意味が解らない。
首を傾げると、水戸さんは溜め息を吐き、少し強めに私の頭を撫でた。
ますます疑問符が増える。
「俺これから接待だから、送ってやれないけど……」