料理を盛り付けていると、玄関ドアの施錠が解除音が鳴り、私は急いで玄関へ向かう。

開いたドアから大好きな人が私を視認認すると、穏やかな笑顔をうかべる。


「ただいま」


両手を左右に広げて私を呼ぶ。

小走りにその胸な飛び込み、正面からお互いの身体をぴたりと合わせる。


「おかえりなさい!」


軽くキスを交わす。

2人でご飯を食べて、TVのニュースを見て。

其々お風呂に入って……。

颯ちゃんは一緒に入りたがるけど、メイクが落ちたら一大事だから、私は就寝直前に頂くことにしている。

しかも、顔が見られないように、颯ちゃんがベッドに入る時間を逆算して真っ暗な部屋にスッピンで戻るのだ。

メイクしたままは寝れないしね。

颯ちゃんとの日々はとても満ち足りている。

だけど、いつも心に居座る不安。

白い紙にインクを落としたように、じわじわと広がる黒いシミ。

婚約者が居る颯ちゃんと、幼馴染、兼、家族のリリー。

そして、リリー扮する愛人の、りこ。

りこは、颯ちゃんが結婚する時には別れなきゃいけない。

こんな不可解な状況でも、まだ明日は大丈夫と寄せ集めた希望で黒いシミを覆い隠して、一糸纏わぬ四肢を颯ちゃんに委ねる。

苦しい。

切ない。

嬉しい。

幸せ。

でも、やっぱりどうしようもなく、苦しい。

そんな矛盾だらけの心の穴を埋めるように、今日も身体を繋げる。

颯ちゃんは、私の脚の間に挟まり覆いかぶさり。

私は縋るように颯ちゃんの背中に手をまわし、注がれる口づけに応える。

唇の隙間からもれる色めいた吐息は、濃密でハチミツより甘い。

素肌の至る所を撫でられ、口づけられた私の身体は、あがる息すら奪われ、今日もただただ颯ちゃんを温もりを求める。


「り……こ、好き、だ。愛してる……」


唇の角度を変える合間に、吐息とともに囁かれ私の耳は敏感になる。


「私も……好き。……大好き。……愛してる」


颯ちゃん、どうか私を忘れないで。

少しでいいから、颯ちゃんの心に私に居場所をちょうだい。

嘘でもいいから、2人が愛し合った記憶を片隅にでもいいから置いて。