幸せになってほしい。
私は、颯ちゃんに育ててもらったに等しい。
うちは両親共働きで、帰りが遅い時には両親に代わって、颯ちゃんちで夕食を一緒にしたし、お風呂にも入れてもらった。
そして、寝る時は颯ちゃんの腕の中ーーー。
私の恋心を除けば、兄妹……父娘に該当してもおかしくないかもしれない。
そんな世話ばかり焼いていた颯ちゃんは、若くして父性に目覚めたに違いない。
幼少期、お姫様に憧れた私の王子様役が、そのまますっかり板についてしまったらしい。
無意識に甘い言葉を発しているのも、その所為だ。
でも、もう私のお姫様ゴッコに付き合う必要はない。
私は、もう大人だし、ちゃんと自分という人間の価値を認識しているから。
会社の近くまでくると、人目が少ないあたりで車から降ろしてもらう。
会社の女の子とかに颯ちゃんと一緒のところを見られたら大変だもんね。
じゃあ送ってもらうのをやめればいいんだろうけど……。
もう少し、私の颯ちゃんで居て欲しいと、なかなかブラコン?ファザコン?ばなれが出来ない私なのです。
そう、もう少しだけ……。
「おはようございます」
始業時間ギリギリ。
挨拶をしながら席につき、PCに電源を入れた。
「珍しいね、黒川さんがギリギリ出社なんて」
そう話しかけて来たのは、人懐っこい笑顔が特徴の野村さん。
私の隣の席で、5歳年上の男性社員だ。
野村さんは、私の奇異な容姿に臆することなく、普通に話しかけてくるので、人付き合いが苦手な私にとって正直面倒……いやいや、気を使ってくれる有り難い人物だ。
愛想笑いをしてPCの起動を待つ。
会社のPCは古くて、立ち上がるのに少し時間がかかるのが難点だ。
「寝坊でもしたの?ご飯は食べた?チョコでもどうぞ」
今度は向かいの席のちょっとぽっちゃりした三沢さんが、身を乗り出して個包装されたチョコを3個、デスクの上にのせて来た。
因みに、野村さんと三沢さんと同期で仲良しさんだ。
「あ、ありがとうございます……」
颯ちゃんの車から降りる際、悪戯になかなか手をはなしてもらえなかったんだよね。