グッと手首を掴まれた。
颯ちゃん以外の男の人に触れられる機会は殆ど皆無なので、心臓が飛び跳ねる。
水戸さんの怒気を含んだような表情に、硬直し言葉に詰まってしまう。
「確かに、篠田颯吾と広田香織の婚約は、会社同士の繋がりを強める為の政略結婚だって噂されてる。だから、もしかしたらアイツの中では黒川が1番ってこともあり得るだろうけど。でも、黒川は日陰の存在でしかなくて、それでもそれ以上になる事はないんだ。黒川には黒川に相応しい清廉とした恋愛をして欲しい」
言葉を切って、居住まいを正し私と向かい合うように座りなおした。
「だから、俺と付き合わないか?俺だったら、誠心誠意、黒川だけを愛するし、黒川だけを大切に出来る」
「えっ!?」
つ、付き合うって私と水戸さんが?
ランチに付き合う?
買い物に付き合う?
あ、この前のパーティみたいなのがまたあるって事??
愛するって……、あ、愛っ!?
もしかして、私達を別れさせる為に言ってるとか??
胡散らしく視線を向けても、水戸さんの瞳からは意思の固さが感じられ、とても戯言とは思えない。
水戸さん、本気なの?
私と付き合うって……。
そんな私を見て、水戸さんが急に笑った。
「悪い。黒川が青くなったり赤くなったり百面相してるのがおかしくて。先に言うけど付き合うって、何処かに付き合うとかじゃないからな。俺は、将来を見据えて、黒川とカレカノのお付き合いがしたいって言ったんだ。」
私の思考を読んだかのように念を押されてしまった。
バレたらしい。
「か、カレ……カレカノ……?」
将来を見据えてって、まるで……。
茹蛸のように私を沸騰させる。
口にしてしまうと何だか無性に恥ずかしい。
「そ。ラインしたり、電話したり。一緒に飯を食ったり。休みの日はデートしたり、何もせずただ一緒に居るだけでもいい。黒川が篠田颯吾としてるような事も含めてののカレカノなお付き合い」
「私と颯ちゃんがしている事?」
首を傾げると、自分の首の付け根をトントンと人差し指で叩いて見せる。
それでも理解できずにいると、
「一応襟で隠れてるけど、角度によって見えてる。男のマー・キ・ン・グ」
バッと首を押さえ隠す。