夜中にうなされて目覚めた私を抱きしめてくれたのも颯ちゃん。

あれ?

そう言えば、颯ちゃんにお世話になり前、ベビーシッターのオバサンがきてくれてた時も夜が凄く怖くてよく泣いてた気がする。

やっぱ、慣れない人が一緒なのと、心を開いてる人が一緒なのとでは違うものだったのかもしれない。

物思いに耽っていると、不意に何かを思い出しそうになっけど、何故か靄がかかったようにぼやけててうまく思い出せない。

ただ妙な不快感に胸の奥がざわつく。


「……黒川?」


水戸さんの瞳が憂慮に揺れていた。

何か引っかかりながらも、一旦記憶を押し込んだ。

今はそんな事より優先すべき件に意識を向けなきゃ。

嫌がらせの話と颯ちゃんとの関係性を一通り話すと、水戸さんの喉が息を飲むように上下した。

そして、自分を落ち着かせるように1度大きく深呼吸を続けた。


「本当パーティの時、十数年ぶりに顔を晒して、凄く怖くて緊張してて……」

「悪い……。俺知らなかったとはいえ黒川に無理させてたんだな。だからあんな不安そうな顔して……」


申し訳さなそうに顔を歪めたので、慌てて否定する。


「いいえ、それでもパーティは楽しかったです。ちゃんとメイクしたのも初めてだったし、自分を着飾ったのも初めてで。人前に出るのは確かに怖かったけど、それでも違う自分になれて楽しかったんです。だから謝らないで下さい」


笑って見せると、心なしか水戸さんの纏う雰囲気が和らいだ。


「あの、話は脱線してしまいましたが、そんな感じで今までずっと顔を隠して来たので、颯ちゃんは私の子供の頃の印象しかないので、大人になって特殊メイクをした私には気づいてなかったみたいで」

「黒川は」


私の話の途中に言葉を被せられた。

相変わらず眉間にシワを寄せて、水戸さんの特徴である少しつり上がった瞳が私を射止めた。


「黒川は、それでいいのか?」


言葉の真意を捉えきれず、小首を傾げてみせると、


「黒川を隣家の幼馴染と認識がない上に、篠田颯吾には本命が居て、婚約中だ。黒川達には未来なんてないし、都合のいいように扱われて、それでも篠田颯吾がいいのか?」