お礼を言ってミルクティーに口につけると、咥内に甘みが広がり、小さく息をついた。
なんとなく重い空気に、会話の切っ掛けがつかめず黙り込む。
思考をフル回転させていると、沈黙を破ったのは水戸さん。
「あのさ、篠田颯吾の事なんだけど……」
限られた休憩時間を考慮してか、前置きはなく本題に触れられ、私も覚悟を決める。
「確かにハイスペックなイケメンだし、大手会社の御曹司だし、憧れるのも解る。そういう相手に一時の流れに身を任せる女もいるだろうけど、黒川はそんなタイプじゃないだろう?たかがハンカチ1枚、きちんと面と向かって返してくれる。パーティで泣く子供を保護した件だって、ホテル側に任せればいいのに、なりふり構わず子供に上着を掛けたり。そんな黒川が、婚約者がいる男との恋愛なんて不毛だろう。どう考えたって結婚前の火遊びか、愛人にしようって魂胆がまるわかりだ」
黒川には黒川に合った恋愛をしてほしい、と続ける水戸さんは、真剣そのものだった。
私なんかの事をちゃんと考えてくれてる人がいる。
それが、涙が出そうなほど嬉しい。
正直、颯ちゃんが私の知ってる颯ちゃんとは違った面がある事には驚いたけど、それでも颯ちゃんを好きな気持ちに揺るぎはなかった。
ずっと好きだった人に家族としてではなく、1人の女として見て貰えた事が嬉しい気持ちが勝ってる。
たとえそれが期間限定だとしても、傍に居たいと思ってしまうのは、我儘なんだろうな。
香織さんから颯ちゃんを奪いたいわけじゃない。
ただ、限られた僅かな時間だけでいいから、嘘でもいいから、女として好きな人に愛されたい。
颯ちゃんの匂いも感触も、視線も温もりも。
どんなにリリーが頑張っても手に入れられない颯ちゃんとの刹那が欲しい。
将来結婚出来なくて一生シングルでも、大好きな人に愛された記憶があれば、1人で生きていける気がするから。
「私、ずっと小さい頃から颯ちゃんが……篠田颯吾さん好きだったんです」