水戸さんの方が怒っているのに何処か悲しいような辛いような表情をしてる。

解ってるよ、私と颯ちゃんの恋はすぐに行き止まる。

それでも、傍に居られるなら……。

水戸さんは、何か言いたげに唇を動かしては、音を伴う事はなかった。

すると、ちょうど始業の音楽が流れて、我に返る。

大変、私まだ制服にも着替えてなかった。

早口に「失礼します」と、一言告げると足早にその場を辞しようとすると、また手首を掴まれた。


「昼に……。昼に3階のレストスペースで待ってる」


そう言って解放すると、営業に出るらしく玄関出入り口へと踵を返した。

私も改めてエレベーターへ向かって走った。

制服に着替えて、息を切らしながら急いでオフィスに入ると、既にタイピングの音が至る所で響いていた。

怒られるかと課長の席を見ると、丁度席を外しているらしく姿はみえず、ほっと安堵の息を吐く。

皆作業に集中しているようで、私なんかを振り返る人は誰もいない。

興味を持たれないって、こういう時助かる。

一応、申し訳ない感じを醸し出しながら自分の席へ進み、パソコンに電源を入れると起動待ちの間に、入室する直前までアップにしていた前髪を手櫛整える。

野村さんと三沢さんだけがあからさまに興味深そうな顔で身を乗り出してみて来たけど、挨拶だけすると話しかけるなオーラをだして、パソコンの立ち上がりを待った。


「勿体ない……」


呟く声も聞こえた気がしたけど、やっぱり聞こえないフリをした。


今日は月末で、少しオフィス内がバタバタしていた。

それでもお昼になって、其々切りの良いところで昼食をとる為、社食に向かう人、自分の席でお弁当を開く人、外食に出掛ける人とにわかれオフィスを出る。

私も気怠い身体と重い気持ちを持ち上げて、水戸さんが指定した3階のレストスペースへ向かった。

エレベーターを降りると、窓辺に凭れる水戸さんがすぐに視界に入ってきた。

私に気が付くと、ベンチに促され、私がいつも飲んでいるミルクティーを手渡される。

お金を払おうとしたら「この前のコーヒーの分」と言って、隣に腰掛けた。