水戸さん、公衆の面前でなんて事をしてくれてたの~!
私は水戸さんみたいに人目に慣れないのに。
なるべく小さく身を縮める。
「み、水戸さん……!痛い、ですっ」
なるべく小声で抗議する。
顰め顔の私の肩を掴み、壁に押し付けると剣呑な雰囲気を纏って私を見下ろす。
憤怒を含む視線に、針の筵にたたされたような生きた心地がしない。
恐怖と困惑を両手に抱え、ますます身が竦む。
「さっきのあれはなんだ!昨日会う男ってのは篠田颯吾だったのか!?」
さっき颯ちゃんと一緒のところを見られたらしく、凄い剣幕を落とされた。
りこの姿を私だと判別出来るのは、実際変身姿を見ている水戸さんだけだもんね。
それにしても………、あー、もう!
シーですよ、シー!
もうっ、デカイ声で颯ちゃんの名前を口にするのはやめてください!
「この前のパーティの帰りに何があった?まさか篠田颯吾と付き合ってるのか?朝帰りだなんて……。こんな事になるなら無理やりでも俺が送ってくんだった」
「あ、ああああの……」
「あいつはダメだ。知ってるだろう?婚約者がいる男だって」
『婚約者』の言葉に上昇していた体温が一気に急降下。
「……知ってます」
「だったら、すぐ別れろ!」
「嫌です!!」
被せ気味に発した言葉は、思った以上に大きな声音になってしまい、いくら隅とはいえ出勤時間の会社のロビーというのもあって、出社してくる社員達からの好奇な注目を集めてしまう。
傍から見れば痴情の縺れに見えるかもしれない。
瞼を伏せて、なるべく小声で言う。
「颯ちゃ……颯吾さんの事は、私なりに理解してるつもりなんです。それでも……ずっと、ずっと好きだったから……今は一緒に居たいんです」
「ずっとって……。確かに時期社長って言われてるし、あれだけのスペックだから雑誌にだって引っ張りだこらしいけど……。純なおまえには遊びの恋愛なんて荷が重すぎる。……気持ち、利用されてるんだぞ?」
チクっと棘が刺さったような胸の痛みを覚えながら、静かに頷く。
掴まれた肩に力がこめられ、私は顔を歪めた。
なのに、どうして?