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朝、颯ちゃんに送ってもらって会社付近でおろしてもらう。
これは、リリーの時と同じ。
リリーの場合は、地味子リリーが颯ちゃんと一緒なんて、颯ちゃんに経歴に変な噂がたたないようと配慮からだけど、りこの場合は……愛人として影の存在でなきゃいけないもんね。
リリーとりこの時間を合わせれば、ほぼ毎日会っているけど、この瞬間、別れる時はいつも離れ難い。
絡まる指先を眺めながら、颯ちゃんも同じ気持ちなら嬉しいな、なんて。
都合よく解釈してみたりして。
「いつも送ってくれてありがとう。あの……もう、行かなくちゃ……」
「うん、いってらっしゃい」
「「…………」」
そう言葉を交わしながら、グッと指先に力を込められた(気がした)。
―――もっと一緒に居たい。
私が、口から零れそうなのを飲み込んで唇を引き締めると、
「ごめんな、引き留めてしまって。もっと一緒に居たいなと思って……。いい年してダメだよな」
「……嬉しい。私も同じ事思ってた」
天を仰ぐ颯ちゃんに素直に伝えると、微笑んで持たれた指先にキスを落とされた。
こんなキザな仕草も、颯ちゃんがやると様になるから不思議。
「じゃあ、今度こそいってらっしゃい」
「は、はいっ、いってきます」
ドアを閉めて出発する車を見送ると、急いで会社のビルに駆け込んだ。
朝の1Fのトイレは使用する人がほぼいない為、気兼ねなくりこメイクをオフに出来る。
朝からメイクしたり洗い落としたり、ちょっと大変だけど全然苦じゃない。
だって、颯ちゃんと一緒に居られるもの。
「黒川!」
洗顔してすっきりキリリとした気分でエレベーターを待っていると、名前を呼ばれて振り返った。
「水戸、さん……。おはよう、ございます」
朝からどうしたのだろうと小首を傾げて見せると、早々に手首を掴まれてロビーの隅へ連行された。
えっ、何?
一緒にエレベーター待ちをしていた社員達も訝し気に此方を注視している。
私みたいな地味子と社内No1イケメンの水戸さんという組み合わせが好奇心を刺激しているらしい。