3歳から颯ちゃんに面倒を見てもらってたから、自分の娘か妹的な存在って意味でしょ。

そりゃあ、18年も一緒に居れば特別になるよ。

颯ちゃんの特別と私の特別では、ニュアンスが違う。

私がもごもご言い淀んでるうちに信号は青になり、颯ちゃんは車を走らせる。


「とりあえず、一生に一度の……記念の物だと思って受け取ってよ」


それは……。

結婚するから最後のプレゼントって事?

近い将来、今までのようにこうして会ったりできないって事?

お嫁さんが居れば、そう、なるよね……。

颯ちゃんの左手と私の右手は繋がったまま。

大きくて、骨っぽい手から、伝わる体温。

昔は、この体温を全身で感じていた。

すり寄っては、抱きしめられ。

手を伸ばせば、引き寄せられる。

この手は、私に与えられた唯一無二のものだと思ってた。

幼い頃に受けた中傷も、泣いては慰められ。

解らない勉強も、先生より噛み砕いて教えてくれた。

苦手な対人関係も、笑顔で対応すれば相手に不快感は与えず、だいたいは乗り越えられると励ましてくれた。

いつも、困った事があれば両親や友達ではなく、真っ先に颯ちゃんに相談していた。

颯ちゃんが居れば、たいてい乗り越えられた。

颯ちゃんの存在は、私の闇を照らしてくれる月だった。

私の想いは届かなくてもいい。

幼馴染でも、家族でもいい。

傍に居られるなら、何も望まない。

颯ちゃんが選んだ人なら、結婚だって、祝福できる。

再び窓の外に視線を移し、流れる景色を見ていると「リリー」とまた呼ばれ振り返る。

颯ちゃんは前を見たまま、私はその横顔を見つめ返す。


「俺は、リリーが何よりも大切だよ」

「……うん。私も……私も颯ちゃんが大切だよ」


颯ちゃんと私の言葉に宿る感情は違っても、それでもいい。