ペンギンコーナーにつくと、
篠原さんは柵に近づき目を輝かせた。

トテトテと歩くペンギンは確かに可愛いけど、
目を輝かせるほど心は動かない。


なんだかなぁ。
不眠症になってから、
心が凍ってしまったみたいだ。

苦しい悲しいって思うことも減ったけど、
同時に楽しいワクワクするって思うことも
減ってしまった。
笑ったり泣いたりすると疲れるから、
表情もなくなった。

今日も楽しいけど、みんながはしゃぐ姿を
見ると冷静になる。
あくまで自分の「楽しい」は体裁なんじゃ
ないかって。
凍っている心が溶けても一瞬。
すぐに凍る。


私って、今までどんな顔でどんな心で
「楽しい」してたんだっけ…。
お母さんが死んじゃうまで働いて稼いだお金で、
こんなことしてていいのかな…。


「…おい、円。」


声をかけられ、ハッとなった。

「宮…。」

心が少し溶けるのを感じる。

「顔色悪いぞ。寒いのか?」

「ううん。ちょっと…疲れただけ。」
寝るな寝るな寝るな
「みんなにどっかで休憩するよう言うか?」
寝るな
「大丈夫。昨日ちゃんと眠れたし。」

「さすがド変態。」

宮がいつものように悪態をつくから、
防衛本能も黙った。

「次ワニだってよ。
ボーッとして池落ちんなよ。」

「落ちないよ、バカ。」


私は宮の後ろについて歩き始めた。

風に乗って香る匂いに、
「落ち着く」
って思う私の心は体裁じゃない。

宮のそばにいたいという気持ちも、
結たちが好きだという気持ちも。

ちゃんと私の心は生きてる。

今、なんでか泣きそうな私の心も、
生きてる。