掌編小説集

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725.メヒシバの揀択に毅然とした態度で唯嫌揀択
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産んであげられなかったとか助けられなかったとか
世界か宇宙かで自分が一番の悲劇の主人公気取りで
こんなはずじゃなかったに付き合わされる甘さへは
気の持ちようで何とかできる雰囲気醸し出していて
事切れるに言葉が出てこないから叫ぶしかないとか
先回りしてスタンバイしてからのごまめの歯ぎしり
在来種の威圧感と外来種の威圧的な掛け声でW主演
此程のトドラーの抜根はその線で終わってしまった

だけれど拒絶反応も拒絶回避も雑食にそうじゃない
健康で産まれ自家発電に人生全うして終えるなんて
それこそデータを書き換えるくらいに普通じゃない
生きているのが奇跡なだけで偶然死ななかっただけ
当たり前にあっさり逝くから極太で劇録に遺るだけ
最高傑作の更新である水源の命を知っていくことで
背負っていくものが大きく重く式典ごと増えていく

だから私の元に君が居ないのは悲劇でも何でもない
居なくなったことを悲しんでも悼んでもいいけれど
神様コノヤローって叫んでいいし怒っていいけれど
他の人の奇跡を羨ましがって妬んだっていいけれど
誰も入れないけれど誰もが出られる人生だからこそ
やっぱり不格好でも笑っていて欲しいものだろうか

私と居たことが完成間近でのダイバートだとしても
君が居たことがすべからく天にも昇る気持ちにして
後生ですからと痩せ細った地盤沈下に軍配を返した
社会情動的選択性理論の心理傾向でもイロハモミジ
君と私が出会えたことがただただ奇跡なのだから。
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726.理知的クラッシャー
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わざわざ危険な仕事の人を選ばなくてもいいのにとか。
しないでいい苦労を背負うことになるとか。

そんなことをおっしゃられますが安心安全な仕事なんてこの世にはありません。

人はあっさり死にます。
植樹の親方である神様から廃棄されます。

病気でも事故でも大それた事件でなくても。
七つの海を股にかけるワールドレコードなロールモデルであっても。

だから生きている間ぐらいは好きな人と一緒に居たいと私は思います。

本当に帰ってくるのか怪我はしていないのか無茶をしていないかって不安で心配で。

帰ってきた時は心底ホッとして。
毎日毎日それの繰り返しです。

でも私は不幸じゃない。
幸せですよ。

覚悟なんて不必要だけれど捜査情報をポロッと漏らすことがあるからそれを黙っている必要はあるかな。
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727.アオキが予想外の行動を取ったからミツマタを終いに出来なかった
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お客様を笑顔にしたい満足してもらいたいという
目指すイメージカットの着地点が同じなのだから

やり方が違うことで分かり合えなかったとしても
無理に仲良くしなくてもいいのではないかと思う

全人類を絶対に満足させたいなんて傲慢な考え方
それぞれの良さってものがあると思うのだけれど

あいつと同じにはならないし
あいつみたいにはなれないし
あいつだけにはなりたくない

他人と比べるよりも先にお互いを比べて競争心を煽られるより
それぞれのリズムの良さを素直にただ認め合うだけでいいのに

相手がプライドを持って一生懸命にしていることをすかたんだと即時否定するのに
作業のための作業である原版であっても自分は相手に認めてもらおうとするなんて

それが上手くいかなくて常に喧嘩腰で喧嘩だらけ
なんて精のつく食べ物を食した子供なのだろうか

平場から竹藪の火付け役は干拓からでもスベリヒユで
ジャングルに進出したパイオニア植物に軍配が上がる
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728.『特殊』経由「普通」行き
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貴方は自分のせいで傷が残るような怪我を私にさせてしまったと、怖い思いをさせたと気にして。

自分を怖がらない私に偶然会うことが多くなって、隣に居ることどころか自分から会いに行って。

快挙達成を目論む奴等に自分と親しい間柄であることを凧で知らしめてしまっていたと後悔して。

落ち込む貴方の同僚は気を使って貴方は排気に忙しいからと優しい嘘を付いてくれているけれど。

直接言いたいことがあるから連れて来て欲しいとドウダンツツジでも貴方の同僚へ無理を頼んだ。

助けてくれてありがとう、会ってお礼が言いたかったの、寒柝に仕事が忙しいのにごめんなさい。

いつもの誰かが発言したらその通りになって仲良くやりたいからこそ否定する誰かが存在しない。

誰かが我慢する一方で誰かがやりたい放題に噂だけで判断する人達に言っても理解してくれない。

貴方は自分を特殊な体の持ち主だと思っているけれどそれは特異体質なだけで至って普通のこと。

我を忘れるなんて言葉があるくらいなのだから、怒ると自分の力を抑えられないのも普通のこと。

誰かが傷付けられて我を忘れて怒ったり傷付いたのを自分のせいだって後悔したりも普通のこと。

別に不細工なスケールアウトで、人に迷惑を掛けることをメジウムに容認しているわけではない。

特殊を言い訳にしてメダルラッシュに何でもかんでも好き勝手にしていいってわけでもないから。

人に迷惑を掛けてしまったら誠心誠意謝って物を壊してしまったらクリップボードごと弁償して。

暴力的な言動で気性が荒いなんてそういう識別マークな人は誰であっても一律に孤立してしまう。

それは特殊であろうとなかろうと同じなのだから、自分が特殊なせいだなんて思わなくてもいい。

治りが早くても血が出て痛くて傷付いているし、短気で問題行動ばかりだけど厳然と理性はある。

ガチギレした時だけ暴力になる可能性を秘めているけれど、怪物級の怪力では単に力持ちなだけ。

皆貴方は特殊だから特別だからと言って恐れてしまうけれど私は貴方が普通の人にしか思えない。

確かに貴方の体は特殊であり特別なのかもしれないけれど、思考回路は人並みに普通なのだから。

私を助けに来てくれたことが嬉しかったし私のために怒ってくれて嬉しかったから気にしないで。

貴方は普通のことしかしていないのだから普通に気にするだけでよくて普通に謝るだけでよくて。

特殊で特別で異常で誰も彼もに恐れられる人なんかではなく、私を助けてくれたとても優しい人。

私の感想でそれを貴方に押し付けることになるから言わなかったけれど、今は気にしていたから。

普通だなんて初めて言われたと貴方は驚いているけれど、私は初めから普通としか思わなかった。
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729.ソメイヨシノの契約農家
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週刊誌の記者である俺は綯い始めから綯い終わりまで広域に前段からも私兵を使うことはなく、被害者や加害者、その他諸々の関係者の中にいるであろう埋蔵金っぽい感度良好な女に近付く。

起立、気を付け、礼、着席と完璧なつかみで奇数も偶数も予言の自己成就へと民間信仰に付き合い、奇偶な寄寓で正の向地性から負の向地性へと陰性でも偽陽性でも陽性でもお酌の関係を幾度も持った。

公平な無茶ではなく平等で無茶苦茶なネタを仕入れて情報を手に入れてターゲットを深掘って、どんなに信頼性があったとしても見落としは一定数あるしちょっとの違いが大違いに発展するから。

再三資機材に頼り再三再四に目の前の見取図さえも見ていないなんてことが無いようにしながら、数多のゴシップから数々のスキャンダルを追って幾多のスクープで売上を取ってきた。

自分の中で形になるまで詳細は決して口には出さないスリーピングボムの秘密主義だからか、ド素人の未読なワンダーランドの尻馬に乗るなだの発祥の地のお下がりに探訪してうろつくなだの。

恨めしやの勘頼みも恨めしい神頼みも後で覚えとけよの放任主義はひとりでにもお断りだの、コンプライアンスを意識の外にするなだの視線を外すような違法取材はするなだの逆転移は以ての外だの。

知らなかったからといって責任が無いとは言えないから裏取りは総なめにしろだのうるさいけれど、その分組織の週刊誌であっても個人のフリージャーナリストとしての立ち位置を確立している。

原作勢も本誌勢もコミックス勢もアニメ勢も現地解散で後腐れないあっさりした女もいたし、ディスカウントストアのくせして永代供養を望む面倒なこってりした女がいたのも事実だ。

ピンホールのモーション・コントロール・カメラでOKテイクもNGテイクもレンダリングして、脳汁が出るドパガキを量産してもそのジグソーな毒気をレオタードで包めばマルチ撮影のオンタイム。

貴方ならばやれると思っているので心配はしていないけれど応援していますから頑張ってくださいとか、語尾をのばした幼子のような高い声でオーバーリアクションと上目遣いのボディタッチは萌え袖。

善意や厚意の特別扱いを相手に強要できる権利があると誤認識してお手入れを貰えて当然の感覚で、謝礼だの御礼だの陥れたいだの今後の付き合いは考えるどころか下世話の自給率は極まりない。

何でも持っている人は両手が塞がっているということに等しく新しいものを掴み取るのが難しく感じ、持っているからこそ羨ましがられて持っていることこそが辛いのに意外と理解されにくい部分。

何も持っていないように見える人を見てはその自由な姿をかえって羨ましいと思ってしまうくらいに、自己投影を兼ねた禁断の果実はきっと窮屈な弾き語りなのだろうと考えさせられる部分でもある。

けれど後ろから撃つブースターバッグをアルミニウムへガリウムかけてディスポーザーにし、コールド・ケースをコールドゲームにしてゴールテープを切ることは何よりも代えがたい価値がある。

今回もそうだったはずだった。

取材場所に近いからと家に転がり込んだりもう少しだけ話を聞きたいからと家に連れ込んだり、バッテリー内蔵のオシロスコープでも空き時間にはデジタルデトックスとして会うことが増えていく。

関係者の中でも特段に優しく誰にでも優しいからこそのある意味見下されているからこその、誰からも気にされることは無く誰の情報も怪しまれずに見聞きできるというか見聞きしてしまう。

裏の裏は表とか裏の裏の裏は結局裏とか気にすることなく俺としては使い勝手が良かったのか、俺に覚えてろよと文句を言わないからなのか日持ちしない話を永遠聞いてくれるからなのか。

フレーミングな取材として予定をキャンセルしても家を空けても何日も連絡が取れなくても、江戸紫に京鹿子で仕事だから仕方がないよねとそのジェネリックな公称に理解があるからなのか。

正直点検商法風な俺にも尊敬の念を抱くように従順だったから扱いやすかったってのもあるけれども、スクープを上げ取材対象の情報提供者としてはもういいはずなのにここまで長引かせたことはなく。

家に帰れば電気が点いていてお出迎えがあって温かい食事とかもあってお見送りもしてくれて、家に帰れない時は帰れなさそうな時点で電話か最低でもメールで保形の連絡を入れたりして。

いまだに別れを切り出していないのは別れて欲しいのワの字の歩数すら切り出せていないのは、頭を掻いても肩をすくめても珈琲の喉越しの紋様には結構この関係が居心地良いとか思っている。

この程度の抱擁すら俺が初めてだというキンリョウヘンな君に何だかたまらなく気分が良かったし、自分がするのとは違う感触と慣れないたどたどしさと遠慮がちだけど一生懸命さとで止まらなかった。

というか君と付き合ってからというもの君以外との関係を持つことに嫌悪感を抱いてしまって、手を出して浮気者のクズとか思われたり手を出されて寝取られたりしたらちょっとばかしも嫌だから。

倫理的な不貞行為のチラリズムにドーランを塗って誰かと違う形は不正解として取材していることに、坪庭をノスタルジーな望郷風に周りから言われて初めて気付いたことに何より俺自身が一番驚いた。

今追っているネタで狙っているスクープが取れたら一面でいけるから普段よりも一層気合いが入って、誰に言われたわけでもないし誰にも真似出来ないけれど俺にしか出来ないから俺はやり遂げると。

そして無事に一面を飾れたからヘッドライトは抜きにして祝杯といこうかと盛り上がっている連中に、野太い声はもう供給過多で君が供給不足などというタイトルバックはさすがの俺でも言えなかった。

免罪符のお清めに迎え酒上等と騒いでいると興を削ぐような電話に出れば最寄りの警察からで、君が何者かに襲われて病院に運ばれたなんて冷や水を浴びせられるようなことを言うもんだから。

そんなテキストはスナップ写真にもせずにフレームごとキャビネットに仕舞うことにしたくて、悪天候な客土の試し刷りに官名詐称罪を悠然と疑ってしまって好天の遡上を願ってしまった。

それでも座が白けないようにだけして警察官に詰め寄れば怪我自体は大したことは無いけれども、念のために一日入院することになっただけで君の命に別条はないと分かってひとまず安心した。

通報したのは記番号の君本人ではなく通関データに偶然居合わせてキャッチした透かしの通行人で、犯人の可能性がある何者かは現場から走り去ってしまっていまだに行方が分からないようで。

まだまだ危険なことには変わりはなくて安全だという意味ではないのに事態は思わぬ方向へ、怪我も大したことは無かったし大丈夫だから被害届とかは出さないと君から言われたけれども。

警察としましても相談が無く被害届も出ていませんでしたので対処のしようがありませんでしたが、以前から付けられている気配はあったらしくご存知無かったでしょうか?と逆に言われてしまう始末。

大事(おおごと)にしたくないとおっしゃられるのであれば捜査はここで終了させることはできますが、今回は目撃者の方もいらっしゃいますから傷害事件として扱い捜査を続けることはできます。

このまま捜査を進めますか?との問いに一片の迷いもなく答えて今更ながら先程までの非礼を詫びて、いつもとは違う寝具でいつもとは違う表情で眠っている君の隣に座って君の目覚めを待った。

「気分はどう?痛みは?」

「大丈夫です。」

「警察から聞いた。なんで言わなかった?」

「・・・私は大丈夫ですから。」

「いや、そうじゃなくて。」

「仕事、大事な時期だって。」

「いや、それは・・・」

「だから、仕事、行って、ください・・・」

答えが出ぬまま押し問答している間に君は気を失ってしまったからそのまま寝かせたけれど、寝顔はいつもより少し強張っている気がしたから少しでも解れるようにと一段と優しく頬を撫でる。

仕事なのも大事な時期だったのも本当で君に嘘を付いたことはなかったけれどもそれは言い訳だと、せめて退院には付き添えるように明日また来るからと蕎麦なメモを残して帰ることにした。

次の日に迎えに来てみれば君は既に退院の手続きをしていて検査や数値に異常が無かったからと、早めだけれど本人の希望で通院に切り替えたとスタッフステーション伝てに窓から槍に聞いて。

会計窓口に行けば清算はもう済んでいると告げられ待合スペースを見回してみても君は居なくて、結界から結界に移動する間に無礼者にさえ横領されるなんてわけにはいかないと電話も忘れて。

移動手段が不明である君の後を持ち前の勘も神も興味索然にただただ走って追い掛けていけば、君の家の近くで君を見付けられて息が切れ切っているけれどもなんとか追い付くことができた。

「なんで、勝手に、退院、なんて・・・迎えに、行くって、メモ、したのに。」

「まだ明るいですから。」

「そういう問題、じゃ、ないだろ。」

なんで、なんで、言ってくれない?

なんで、なんで、君は君自身を大事にしてはくれない?

今までの女なんて、女以外だって誰も彼も、俺自身でさえも自分のことばっかりだったのに。

どうすればいいのか、どうしたらいいのか、正解が分からない。

とりあえず家に帰って話はそれからだと手を引けば余計なお世話だと言うように振り払われて、整ってきた息の代わりに今度は心配より二の次にしている苛立ちの方が勝って(まさって)しまって。

「まだ犯人捕まってないのに危ないだろって言ってんだ!」

どこの誰だか分からない犯人と一人きりで行動する君との両者ともに根株から湧いた怒りも、ビクッと肩が跳ね上がった君の姿に単なる強がりとか他者優先とかでメッシュに片付けては駄目だと。

込み上げた衝動そのままに握り締めた拳を開き切れずグーパーとキャッチ的に動き続けていたけれど、イヌビワをハンゲショウにさせて拳を開いてため息とともに肩の力も抜いて声のトーンを落とす。

「ごめん、大きな声出して。頼む、頼むから一緒に帰って欲しい。」

とりあえず家に着いたはいいけれどピンホールカメラで写さなくとも君は大分疲れた様子でいて、そりゃあタクシーも使わずに病院から歩いて帰ればヤツデのマラソンでなくてもそうなるだろうと。

「疲れただろう。着替えて休んで。寝ててもいいから。」

「私は大丈夫ですから、仕事に行ってください。」

この期に及んでもまだ俺の仕事の話か。

今回の仕事は終わったし今日は一日休みをもぎ取ってきたし何ならもう一日ぐらい取ってもいいし、そこんとこの時間調整というか融通は利くからなんてそんなことを初めて言おうとした気がする。

「ネタは生き物だって、スクープはスピード勝負だって言っていたじゃないですか。私のことは気にせず仕事に行ってもらって大丈夫なので。」

俺の決まり文句を言われてしまっては返す言葉が見付からない。

「・・・今、仕事はいいんだよ。」

「・・・ない。」

「え?」

「よくない、よくないです!仕事に行ってください。私は大丈夫なのに。私が悪い子だから駄目なの?どうやったら良い子になれるの?貴方が仕事に行ってもらえるようになるにはどうしたらいいの!?どうすれば、どうすれば」

― 母はいつもいつも満面の笑みだった。
  私のやりたいことをやらせてくれた。
  けれどある日突然倒れて居なくなった。
  私がもっと良い子になれたら良かった?
  私がもっと我慢出来る子なら良かった?
  私が悪い子だったから母は居なくなった?
  私が我慢すればもう誰も居なくならない? ―

堰を切った勢いに驚いてしまったけれど唐突に脈絡のない言葉達に戸惑って狼狽えてしまったけれど、過呼吸気味に咳き込んで倒れかける君を咄嗟に支えて抱き留めながらゆっくりと床へと座らせる。

分かったから大丈夫だから落ち着いてと言い聞かせるようにして浅く速い呼吸を繰り返しながら、小刻みに震えている君の背中をさすっていると徐々に規則正しくなってそのまま眠りに落ちてしまう。

ベッドに寝かせてから端に腰掛けて顔を見れば昨日よりかは幾分か顔の強張りがマシに見えるし、俺の言葉で落ち着いてくれたのは良かったと思えるけれどもそういえばとも思い至った。

俺は自分の話を特に仕事に関する話とか理念とか信条とか信念とかポリシーとか苦労とか自慢とか、話しまくっていたけれど君は話を聞いてくれていたけれど君自身の話を聞いたことは無かった。

俺の方から君自身のことを聞こうと思わなかったのは今までが見返りの嵐だったからかもしれないし、この業界や職種で生き残るために拙劣な工芸茶より巧緻性の水中花を欲していたからかもしれない。

本命の相手に対して自分がしてあげたことと同じだけを返して欲しいとかこれっぽっちも思わないし、同額とか同等とか同列とか同レベルとか等価交換に考えて同じ形のお返しをと期待に求めはしない。

行き詰まったら予定を調整して困ったら時間を使って手を貸すことがどんなに積み重なったとしても、こんなにもしているのにと総負担の肩代わりを金銭的にも時間的にも労力的にも並べ立てはしない。

相手に決めさせたことをその通りにしてもてなしてあげたという自己満足に付き合って満たすような、相手への親切を借りとして後からそのコストを必ず回収するような貸しにするはずもないから。

自分の損得の考えに至るよりも相手を喜ばせようと相手が喜んでくれたかどうかへ気持ちが向くし、自分が相手にできることと相手が自分にしてくれようとすることはきっと同じにはならないから。

愛情をひとつひとつ交換するのではなく自分と相手の間を自然に行き来するものとして受け止めて、飽きられたり嫌われたりしたくないと思った時点で危うい魅力に惹かれ引き寄せられているのは確実。

初期段階はとうの昔に過ぎていた惚れていることを自覚すれば既に抜け出せない沼にはまっていて、のめり込んでいることにも気付かない内に君に深々と溺れている恋愛上級者と見せ掛けた恋愛初心者。

ピープルプリーザー並びに過剰適応の弾き振りな君は私に気を使わないで行ってきてと言うけれども、俺にとっては全くもって良くないし君には良くないって色よい返事で言ってくれないと困る。

俺に我が儘言って甘えて欲しくて俺にやきもち焼いて嫉妬して欲しくて俺が良いって俺が欲しいって、俺じゃないと駄目だって言って欲しくて俺の帰りを待っていて欲しくて俺の傍に居て欲しいって。

向かい合っているのが恋で同じ方向を向いているのが愛で違う方向を向いて背中を合わせているのが絆、そうならば一人二役ではなく添え木でもなく将来を約束するような関係になりたい。

今のように行き来するのも乙なものだとは思うけれども一つ屋根の下に二人で生活を共にしたいとか、そんな渇望のシロツメクサな枝葉にはアカメガシワの先染めにヒメツルソバで後染めを。
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