元樹君と一緒に帰ってきたのは、その点でも都合がよかった。


 元樹君がそばにいてくれればというのは、世話焼きな性分だからというだけではなく、そういう意味でもある。


 噂の一人歩き防止策。


 若い主婦層からの評判もいい渉が自らの口でそう言うのだから、迂闊なことは慎むべきと、お母さん方に暗黙の了解を得てもらったのだ。


 やがてその主婦たちも子供の手を引き帰っていくと、店内は一気に静かになった。


 夕飯前のちょっとしたブレイクタイムだ。


 子育てのことは渉にはまだよくわからないけれど、ご飯にお風呂に、小さい子には寝かしつけなど、まだまだお母さんは休めない。


 つかの間の休息時間になれていたらいいんだけど、と思いつつ、カップやグラスを片づける。


 店内に残るのは、先ほど入ってきた女性客が一人。


 ゆっくりとコーヒーを楽しんでいるようで、手にはリネン生地のブックカバーをかけた文庫本を持っている。


 ときおりパラリとページをめくる。その間に、少しずつカプチーノが減っていく。


 洗い物が終わると、店内はさらに静かになった。