「お前は今年もトップテンとか狙って、じゃんじゃん歩きそうだなー。よくやるよ、105キロも黙々歩いてなにが楽しいんだ?」


「そう言うお前は、今年も適当にだらだら歩いて途中リタイヤしそうだな。今から目に浮かぶぞ、へらへら笑って救護車の先生の車に乗り込むところ。そのうちバレるって」


「ははは。ひでーなー晄汰郎は。たかが、りんご一個じゃん。割に合わないことはしない主義なの。無駄に疲れたくないしね」


「……ほんっとクズだな」

「なんとでも言え、体力バカが」

「うっせ」


 グループ五人のうち、晄汰郎と仲がいいのは、どうやら統吾だけのようだ。

 ほかの四人は砕けきったふたりの会話を物珍しそうに聞いていて、彼らの近くに足を止めたままの詩も、よく喋る晄汰郎がとても珍しかった。


「もうすぐ授業だな。じゃあな」

「おー」


 少しして、気の早い先生が廊下の向こうから姿を現した。それに気づいた晄汰郎が統吾に向けて軽く手を上げる。

 統吾もひらひらと緩く手を振り、彼ら五人は連れ立って自分たちの教室に戻っていく。「知り合いなの?」と尋ねる杏奈に「近所の幼馴染」と統吾が答える声が、すっかりひと気の減った廊下に少しだけ響いて詩の耳にも入ってくる。