それでも、晄汰郎には試すようなことをしてほしくはなかったのだ。

 野球に一直線に打ち込むように、クラスメイトに頼られるように、誰かのひと言に簡単に自分のスタイルを崩さないでほしい。

 今どき珍しい愚直なまでのその感じが、逆に格好いいんだから。


「……教えてあげないよ。私がなんであんなことを言ったのかも、晄汰郎をどう思ってるのかも、絶対に教えてなんてあげない」


 言うと晄汰郎から「それもお前の計算?」と、鼻白んだため息とともに皮肉ったような質問が返ってきた。

 それには答えずにいると、ちょうどスカートのポケットに入れていたスマホがブブブと震え、静かな教室にその機械的な音がやけに大きく響いた。


 見なくてもわかる。友達からの心配の声だろう。それに、そろそろ戻らないと、本当に授業に遅れてしまう。そうしたら、友達にも先生にも、なにを言われるかわからない。


「……もう行こうよ」


 嘆息を漏らしながら、皮肉は無視して晄汰郎に近づく。

 もうとっくに顔の脇から下ろされている彼の両手は、代わりに体の脇でだらんと力なくぶら下がっているだけだった。