これが正真正銘の〝ミイラ取りがミイラになる〟じゃないか。……しくじった。


 いまだ射貫くような目で見下ろしてくる晄汰郎と見つめ合ったまま、詩は内心で盛大に舌打ちする。

 時間がもったいない。まだなにも妙案が浮かんでいないのに。晄汰郎になんか構っている暇は、一秒だってないのに。


「で、なんだったの、あれは」

 再度尋ねられて、今度は目が泳いだ。椅子からお尻が浮きかける。もう今すぐ逃げ出してしまいたい。

 けれど晄汰郎に、逃がすか、とでも言うように机に両手を付いて身を乗り出されてしまった。ちらりと目だけで彼を見ると、その強引とも取れる動作とは裏腹に、どこか切羽詰まっているような、そんな気もして、詩はわけがわからなくなる。


「……な、なんだったの、って」

「俺のこと、本気で好きになったの?」

「は?」


 冷や汗をかきながら視線を明後日のほうに向けてはぐらかそうとすると、間髪入れずに聞かれて、またばっちり目が合ってしまう。

 しまった、こいつのペースに呑まれそうになってる場合じゃないよと、はっと我に返ったときには、けれど、もう遅い。


「ちょっと」

「えっ、えぇっ?」